第53回 怪盗でございます (上)
巷を騒がす怪盗ヌパン様は、やや細身ではありますが、スーツのよく映える好青年といったお姿をされております。
人当たりの良い爽やかスマイルは決してわざとらしくはなく、わたくし、ついついお話が弾んでしまいます。
「ほお。ヌパン様の捕縛担当官は、あのケイヴ様でいらっしゃいますか。いえ実はわたくしも、先日誘拐犯を5人ほどケイヴ様にプレゼントいたしまして」
「それはさぞお喜びだったことでしょう。いやいや、世間とは狭いものでございますね」
至宝の安置室へのご案内前に、ひとまずのおもてなしといたしまして、第三応接室へお茶をお持ちいたしております。
お茶請けは新米を使用いたしました固焼きせんべいでございます。
お嬢様もこちらは大好きでいらっしゃいまして、お出しいたしますといつまでもいつまでもあぐあぐあぐあぐとお口を動かしておられます。
もちろん後で、わたくしの最硬レシピによる、鋼鉄固焼きせんべいをお持ちいたします。
「さて。お待たせいたしました。至宝安置室にご到着でございます」
わたくし、そう申しまして応接室の家人用椅子から颯爽と立ち上がりました。
それからお部屋のドアを開けますと、
そこは廊下ではなく静謐な石の宮殿になっております。
「こちらには、第三応接室ごと移動するエレベーターでのみ来ることが可能となっております」
ヌパン様は、ちょっと驚かれたように目を丸くされまして、
「ご案内下さりまして、誠に恐縮の至りでございます。わたしも、ここまでしていただけるとは望外でございました。チョパンサ様は、泥棒にも変わった態度を取られるのですね」
「ヌパン様。どうぞ、わたくしのことはサンとお呼び下さいませ。僭越ながら、近しい間柄の方からはそのようにお呼びいただいております。あなたとはこれより、ライバル関係でございますから。どうぞ、今後ともよろしくお願い申し上げます」
エレベーターの動力でございますね。
人力でございます。
わたくし、おもてなしをいたしながら椅子の下ではせっせとペダルを漕いでおりました。
スポーティー執事でございます。




