第52回 風物詩でございます
「この分なら、今年も収穫祭は大丈夫そうね」
「左様でございますね。お嬢様、収穫祭の他にも、秋は観月会に灯篭祭、紅葉狩りや鹿狩りもございます」
「まあ、楽しみー! それなら私、寄宿舎から毎週帰って来ないといけないわ」
「大忙しでございますね。寄宿舎の方々のために、お土産をお持ち下さい。今度の収穫祭でございましたら、小麦のケーキやお米のお団子、りんごにさくらんぼ、あとは怪盗などもよく取れますかと」
お嬢様は、大層お顔を綻ばせて空っぽの荷車をお引きになりました。
「ごめん下さいませ」
お屋敷に戻りましてから、わたくし、お庭のお手入れをいたしておりました。
具体的には、お庭の適当な所で「気をつけ」と申しながら背筋をピシッと伸ばしまして、風で倒れておりました草木にも同じような姿勢をピシッと取っていただいた次第でございます。
そこで、門から声が聞こえて参りましたので、わたくしその場でスピンいたしました。
「はい。お待たせいたしました。こちらルビンフォート家でございます」
門の脇から穴をボコォと開けまして、わたくしにゅるんと華麗に参上でございます。
折り目正しい長身の紳士が、シルクハットを取りながらご挨拶をなさいました。
「突然のお伺い、大変失礼いたします。わたし、怪盗ヌパンと申します」
そう仰って、その紳士は白い封筒を差し出して来られました。
「ご丁寧に、こちらこそ恐れ入ります。わたくし、ルビンフォート家執事のサン・チョパンサと申します。ヌパン様、ご用向きは窃盗とお見受けいたしますが、当屋敷のいずれの品をご所望でいらっしゃいますか」
「ありがとうございます。詳細はそちらの予告状にございますが、わたし、今回は貴家の至宝であります精霊石をいただきとうございますが、よろしいでしょうか」
「かしこまりました。それでは、これより精霊石の安置室までご案内いたしますので、どうぞお入りくださいませ」
今年は飢饉や干ばつもなく、本当に何よりでございます。
かつてイナゴが大発生いたしました蝗害の年は、
わたくし物凄い量のおしょうゆとみりん、お砂糖をご用意いたしまして
イナゴの佃煮パーティーを連日催しました。




