第48回 夜のお散歩でございます
次の連休、お嬢様は外出許可を取りまして、お屋敷にお帰りになっています。
ご帰宅のご用件は特にございません。
お気の向くままにお休みを満喫されておいででした。
穏やかな秋の夜でございます。
お嬢様は、お散歩に行きたいとおっしゃいました。
わたくし、護衛のためにも当然お供いたします。
このお屋敷が建っておりますのは高原の避暑地でございます。
今の季節、この辺りは学校のあります平地よりもずっと冷え込みます。
防寒対策は必要でございますが、お嬢様はいま、長袖のブラウスの他は薄いカーディガンしか羽織っておられません。
タンスの中には、秋物のコートが掛けてあったはずでございますが。
ともあれ、お嬢様を夜風からお守り出来るのは、わたくしだけでございます。
わたくし、お嬢様の3歩後ろに控えております。
それでいて、風上を凧のように超低空飛行いたしまして、体感温度を下げる空気の流れをシャットアウトいたしております。
日傘の魔法の応用技――
≪執事風防≫!!
「月が綺麗ね、サン」
わたくし、執事が隕石を食らったような顔をいたしました。
鼻から燃料を漏出して撃墜されましてございます。
「少しでいいから、一緒に歩かない?」
「……は。では、失礼いたしまして」
と、申しましても夜風からの盾は必要でございますので、お嬢様の真後ろにおります。
夜道を一人歩く少女を上着を広げて追跡する成人男性。
いつもの光景でございます。
ぽつり、ぽつりと、何ということもないお話をいたしまして、お屋敷に戻りました。
「ありがとう、サン。またこうやって、デートしてね」
お嬢様の作戦勝ちでございます。
たまには本当に、特別なことのない日常を
ご紹介いたしたいところでございますが、
魔法を使用いたしますと、つい鼻血落ちが付随いたしてしまいます。
しかしそれも普通と言えば普通でございますね。




