第45回 お嬢様、復習は大切でございます
「えいっ! えいっ!」
お嬢様の、元気のよい掛け声がわたくしの耳に心地よく響きます。
寄宿舎の庭を一部だけお借りして、夕暮れの下、お嬢様が剣の練習をなさっておられます。
「腕だけで振るのではありませんよ。お腹とお腰に、リズミカルに力をお入れ下さい」
お嬢様はわたくしのアドバイスを素直にお聞きになります。
少し経ちますと、カカシへの突き込み音が多少変わりました。
「その調子でございます。執事流護身剣術は相手を打ち負かすことが目的ではございませんが、気迫のこもった剣筋は相手の隙を作り出します」
「軽すぎる。遊んでいるのか」
ぶっきらぼうなお声と共に、横でご覧になっていたアルギュロス殿下が練習用の柳の剣を構えられると、あっと言う間にカカシへ切り上げ、逆袈裟、突きの3連撃を加えられました。
それから短い銀髪同様の、10歳にして鋭い眼光を投げかけられます。
「意欲はあるようだが、コイツの才では精々が貴婦人のスポーツ程度だ」
「スポーツを嗜んでおられれば、試合の機会も巡って参ります。試合には騎士も参加し、そこから始まる国際交流もございます」
「俺様はぬるい親善試合になど出る気はない。国を守ってこその騎士で、民に尽くしてこその貴族だ。……コイツも同じ考えではないのか」
お嬢様が黙り込まれましたので、わたくし、ここまでにいたしましょうと申し上げ、縄を解きながらひらりと回転しつつ棒から着地いたしました。
身にまとっておりました巻き簾もマントのようにファサァッと外し、カカシの片付けも終了でございます。
「アルギュロス殿下、本日はお嬢様のお稽古にお付き合いいただきまして、心より感謝申し上げます」
「決闘の代償だ。礼はいらん。……しかし貴様も、聞いた通りのド変態だな」
身に余るお言葉と新鮮かつ初々しいご反応、誠に光栄至極に存じます。
ちなみに今回のカカシ、
他には魔物の姿をしたモンスターバージョン、
麦わらを束ねたシンプルバージョン、
お屋敷の宝物庫に大切に保管されております
聖騎士の鎧バージョンとございます。




