第44回 体育祭でございます (下)
わたくし、ただいま試合のコートに立っております。
鞘に納めた竹光のレイピアを提げております。
向こうには、ゴツイ板のような木剣を提げた、筋肉質の大柄な壮年の男性が同じように立っておられます。
ルクレティレ公国のアルギュロス殿下の従者の方でいらっしゃいます。
「ぐっふっふ、貴様のような優男が儂に敵うと思うか。身の程を知れ」
先程、お嬢様が啖呵を切られました。
あれは決闘の申し込みでございます。
この国では決闘の際、女性の場合は代理人を立てることと、同じ相手との勝負は連続して行わないことが通例となっております。
従って、わたくしが代理に立ちました。
そして、わたくし、執事でありながらこの学校の非常勤講師でございます。
生徒と決闘をすることは出来ません。
従って、アルギュロス殿下の従者の方が代理に立たれました。
「サン、私こんなつもりじゃ――」
「いいえ、お嬢様」
お嬢様の後悔や謝罪のお言葉は、わたくしの望むところではございません。
「決闘の代理人は正当な作法でございます。加えましてお互いが代理人でございますので、これにておあいことなります。また、わたくし、お嬢様のお役に立てることが何よりの喜びでございます。
――それから。
先程のお嬢様は、大いなる器の片鱗を見せて下さいました」
勝負のルールは試合と同じ、1本か場外で負けとなります。
では、エキシビションマッチ、開始でございます。
0.5秒後。
相手の方は場外に立っておられまして試合終了でございます。
わたくし、気配を完全に消した上で瞬く間に近づきまして、よっこいしょと抱え上げまして安全かつスマートに場外までお運び申し上げました。
「儂の、負けだ……!
若造、貴様平和的にこの場を収めたと見せかけて、恐ろしく気持ちが悪かったぞ!
儂は……儂はこれまでの人生で……!
お姫様抱っこなどされたことはなかったわ!」
わたくし、黙って優雅に一礼いたしました。
練習や試合用に、カバーをつけた木製の細剣を使うことはポピュラーでございます。
が、ゴツイ板のような大剣を木製にしたとて、全く安全ではございません。
あれがOKでございましたら、試合に角材の使用も認められることとなりますので。
わたくしも、たまにはこうしてツッコミに回らせていただくこともございます。
何しろこの物語、ツッコミ役はほぼおりませんので。




