第43回 体育祭でございます (中)
試合に負けてしまわれたお嬢様、ションボリと壁にもたれていらっしゃいます。
わたくし、高速で頭をなでなでいたしとうございますが、今のところは我慢いたします。
と、申しますのも、下手な慰めはお嬢様のお心を傷つけてしまう恐れがございますのと、そもそも今回の試合、落ち込むには値いたしません。
そのことは、対戦相手も分かっているご様子です。
あれから次々勝って優勝したその相手、隣国ルクレティレの公子でいらっしゃいます。
銀髪浅黒切れ長の目、やや細身ではいらっしゃいますが剣を握る姿に淀みがないあたり、日頃から相当鍛錬を積まれておいでのようです。
実際、先日の魔法科学の授業の際に魔力の照射で紙風船を割ったのも、体育の授業でわたくしの顔面にダンクシュートを成功させたのも、職員室前の廊下をすでにピカピカに磨き上げていたのもその方、アルギュロス殿下でいらっしゃいます。
その殿下、従者を連れてこちらにつかつかと歩いて来られました。
ご本人は素通りされるだけでいらっしゃいましたが、大柄な従者の方がちょっと立ち止まりまして、
「剣も抜けぬ者にアル様の相手が務まるか。指南役もさぞ無能なのだろうな」
嫌味を言って行きます。
「よせ」
アルギュロス殿下は不機嫌そうな地顔を更にムッとされて制止なされました。
確かに、本質といたしましては、お嬢様は護身剣術をご存分に活かされ、お怪我もなく戦場からの離脱に成功されました。
そして、嫌味に対しましては、剣も抜けぬ者に一撃すら加えられない貴公子様、というお返しが出来てしまいます。
双方に望ましくないこととなりますので、わたくしも殿下も無言でございましたが、
「サンを悪く言わないで……!」
お嬢様は違うアプローチをされました。
「剣術の指南を命じたのは私。彼はそれに従ってくれた。……そして力が及ばなかったのも私であり、彼に一切の非はありません。全ての責任は、私にあります!」
「アルギュロス」はギリシャ語で「銀」を意味します。
この物語は、分かりやすく覚えやすいお名前の方ばかり
登場されますので、
通勤通学などの時間帯で、まだ頭が目覚めていらっしゃらなくても
スムーズにお読みいただけますよう調整いたしております。




