第38回 伝説の木の下でございます
体育館の裏はそれなりに広く、大きな木もございます。
わたくし、両手と頭上に雨傘を立てまして、片足立ちでバランスを取っておりました。
しばらくしますと、お嬢様がおぐしを跳ねさせ、息を切らせつつ走って来られました。
「はあはあ……、お待たせ、サン」
胸元にお手を当てられて呼吸を整え、緊張気味の眼差しで立たれるお嬢様。
わたくしのベストショットでございます。
「お嬢様。この学校には言い伝えがございます。こちらにあります桜の木のそばで想いを口にしますと、願いが叶うとか」
お嬢様は胸の前に両手を組まれ、紅い目を丸くされていらっしゃいます。
多少ロマンティックな感じではございましたが、わたくしが差し出しましたのは雨傘でございます。
「本日よりご希望の通り、剣術の訓練に入ります。それに際しまして、お嬢様の適性をご確認させていただきとう存じますので、ご許可のほどをお願い申し上げます」
お嬢様は少しの間うつむかれておいででしたが、やがてお顔を上げられた時、その瞳に宿られる決意は、今朝と全くお変わりありませんでした。
「分かったわ。私、途中で練習を投げ出したりしないから」
早速拝見いたしますと断りまして、わたくし、両手の指で丸を2つこしらえまして、眼鏡のように顔に当てました。
これぞ執事魔法――
≪執事覗窓≫!!
お嬢様の現在の状態が、全て数字となってわたくしには見えます。
スリーサイズとかの項目もございますが、そちらは画面が赤い飛沫のようなもので染まっ■お■まして、誠に残■なが■、よ■分か■■■ん。
わたくし、お嬢様のプライバシーは最優先で尊重いたしておりますので、
執事魔法を悪用しての覗き見などは、一切いたしておりません。
そう申しますれば、以前トモミ様がお屋敷に来られていた折、
わたくしお嬢様のお部屋には天井裏から気配もなく参上いたしましたが、
あれはそう、えー、ネズミなどがいないか偵察しておりました。
本当でございます。




