第33回 事後報告でございます
「はい。皆様まとめて、プレゼント用に捕縛しまして憲兵さんにお中元を」
『ならば、ひとまずはあちらに任せるとしよう――しかし、囮捜査のようで娘には悪いと思っている』
「そのお言葉、是非ともお嬢様に、ご対面の上で直接おっしゃっていただけましたら」
『正論で嫌味を言われては一言もない。お前にも、苦労を掛ける』
「わたくしの辞書、お嬢様の項目に苦労の文字はございませんし、苦労の項目にお嬢様の文字もございません。ところでわたくし、良いことを思いつきましてございます。旦那様、分身なされてどちらかをお屋敷に置かれてはいかがでしょう。水晶越しのわたくしのように、こう、反復横跳びとかで」
通話が切られました。
まあ用件は済んでおりますので、旦那様の私室からお嬢様のお部屋へと向かいます。
お嬢様は無事に保護いたしました後、お屋敷に戻っておられます。
学校にはご帰宅の旨、旦那様経由で校長先生にご連絡が行っております。
しばらく学校もお休みなさるかとも思われましたが、
「ちゃんと今日も行くわ。どこもケガなんかしてないんだから」
お嬢様ご自身のご希望でございますので、わたくしに否やはございません。
ただし、登校前に健康診断はさせていただきます。
本来、お嬢様の健康診断は当直の医師の役目でございます。
が、なにぶん、お屋敷のおじいちゃん先生はいま、ゲートボール全国大会の個人決勝戦に出場しております。
そのため、お嬢様に『お洋服脱ぎましょうねー』ができるのは、わたくしだけでございます。
しかし、今朝は肌寒いので、制服のブレザーはお召しになられて大丈夫でございます。
わたくし、視覚と聴覚には自信がございますし、医療行為を冒涜するつもりはございませんので、普通に診察いたします。
ただ、朝の忙しい時間でございましたので、白衣の下に布をまとうのを忘れました。
わたくし、一介の執事でございます。
特にお嬢様のお怪我やご病気の際、私情を排しまして冷静に観察や処置に
当たらせていただきます。
ごくごく当然のことでございますが、
何故かあまりご信用いただいていない気がいたします。




