第32回 お嬢様誘拐事件でございます (下)
宵闇の空、いかにもな古びた廃屋に、わたくし、華麗に到着でございます。
「ごめん下さいませ。名乗る程でもございませんが……わたくし、執事仮面でございます」
「何だコイツ顔面に女物の靴なんか履きやがって! 野郎どもやっちまえ!」
5人ばかりの犯人グループでございましたが、執事チョップにより行間で全員終了でございます。
なお、執事チョップは魔法ではなく通常技でございますので、悪しからずお願い申し上げます。
奥の暗いお部屋の隅っこに、むしろが敷かれておりまして、小さな女性の気配が感じられました。
お身体に傷をつけると値崩れするためか、縄などでの拘束はなかったようでございます。
わたくし、敢えてリズミカルに足音を鳴らしまして、軽快にノックいたしました。
「お嬢様、見ーっけ。でございます」
お靴を差し出しますと、制服姿のお嬢様がわたくしに飛び込んで来られました。
「うーーーーー……!」
「わたくしにかくれんぼで勝利なさるとは、お嬢様はご成長なされましたね。『貴人3日会わざれば刮目せよ』、学校が始まりましてちょうど3日でございます」
「うわあああああん!!」
お嬢様はそのまま、わたくしにぎゅっとしがみついて来られました。
「お次は力比べ、でございますね。謹んでお受けいたしましょう。お嬢様は体力も付けられましたようで、わたくしも秘奥義を繰り出さざるを得ません」
わたくし、月明かりと同じ色のおぐしを、ぽんぽんと押さえました。
勝負の行方は、満月のみぞ知るところでございます。
ご説明いたしましょう!
執事仮面とは、執事に頼ってばかりいないで独り立ちしようと
背伸びなさっているお嬢様を人知れずお助け申し上げるために、
執事が正体を隠し変装している時の姿なのでございます!
ちなみに、「顔面に女物の靴を履く」とは、
遺留品でありますお嬢様のローファーを確実にお届けするため、
また執事の正体を隠すため、
更にはここぞとばかりにお嬢様のお靴を堪能するために、
中敷きに執事の鼻をぎゅうぎゅうに突っ込んだ状態のことなのでございます!




