第31回 お嬢様誘拐事件でございます (中)
道端にぽつんと置かれたお嬢様のお靴だけでも、ある程度の情報は伝わって参ります。
まず、現場はちょっと狭い並木道でございます。
確かに人気はありませんが、それでもここは王立魔法学校の広大な敷地内。
外壁と、ある程度のセキュリティは備えてあります。
そこらの変質者が易々と侵入できるものではありません。
犯人はそれを破る方法があった、あるいは内部からの手引きのようなものがあったかも知れません。
更に、本日は秋学期が始まりましてから三日、緊張もほぐれましてちょっと気の緩む時でもあります。
その時期とこの場所を狙い、なおかつ初等部とはいえ魔法学校の生徒を連れ去ったあたり、犯人は学校の内情の知識と土地勘、魔法技術の持ち主と察せられます。
つまりこれは行きずりの犯行ではなく、計画的なものでございます。
最後に、お嬢様はご自分の持ち物を大切にされるお優しい方でいらっしゃいます。
冗談でお靴を放り出されて、狂言誘拐ということは決してございません。
情報はまとまりましたので、後はお嬢様をお探しするだけでございます。
ここの生徒は貴族の子女が多く、それを踏まえますと営利目的……身代金や人身売買の可能性もあります。
だとしますと、犯人は自力での魔法で、離れた所のアジトにでも飛んだと思われます。
空間転移魔法の難易度から、熟練者でも安全有効範囲は半径50キロメートル。
それさえ分かれば、魔力の残滓から追跡が出来ます。
が、なにぶん、わたくしはいま、お嬢様に魔法を禁止されております。
そのため、このピンチを乗り越えることが出来るのは、
お嬢様だけでございます。
『むしろの布団が吹っ飛んだ!』
寒~~~~~いダジャレと共に、西北西38.466キロメートル先に、寒気の渦が観測されました。
この物語をお読み下さっていらっしゃる方々にはお分かりかと存じますが、
『そこらの変質者』とはわたくしのことではございません。
ただわたくしは、魔力の残滓を解析しての追跡も可能でございますし、
お嬢様のお靴に思いっ切り顔をうずめて匂いでの追跡も可能というだけのことでございます。




