第20回 わたくしの生い立ちでございます (中)
わたくしの故郷は、ここより森を越え丘を越え、山を越えて海を越えて、
雲を越えて空を越えて、太陽をも越え星をも越えて、宇宙の果てをも遥かに越えて。
遠い遠い、光の向こうの異世界にございます。
わたくしがこちらに参りますとき、声ではなく、このようなことが知らされました。
≪天涯孤独の身にして魂の波長近き者。契約を受諾するならば間近き孤独の魂を救え≫
分かりやすく申し上げますと、わたくし、このルビンフォート家に執事として召喚されましたわけでございます。
古くからの大規模な召喚魔法の設備もありますので、ルビンフォート家は代々、そういった家柄なのでございましょう。
もちろん、同意の上でございます。
魔法陣の中からお部屋の様子を拝見いたしますと、小さな女の子が目を赤くはらして隅っこで座り込んでいました。
ここから、お嬢様とわたくしの日々が始まったのでございます。
「ねえ、ジョー。あなた、サンをどう思う?」
「どう? ……とっても優しくしてくれるよ。いつも私のこと考えてくれてる。お勉強には、ちょっと厳しいけど」
600メートル遠くから、お嬢様たちのお話声が聞こえてきます。
正確には、聞こえずとも伝わってくるのでございますが。
わたくし、両手両足をピタリと揃えて強烈にスピンしつつ宙を舞っております。
お嬢様たちのお声には、わたくしを案じなさるような雰囲気は一切ございません。
それもそのはず、わたくしノーダメージでございますので。
オオウシカバサイの、時速59キロメートルののんびりした突進をみぞおちでやんわり受け止め、同時に腹筋を使った当て身をカウンターで脳天に与えておきました。
更には指先で心臓を打ち抜いてありますので、獲物は苦しむことなく仕留められました。
トモミ様がレディーらしく横座りをなされておいでなのに対しまして、
お嬢様は膝を抱えた体育座りでいらっしゃいます。
わたくしの動体視力をもってすれば99回転半ジャンプしながらでも
お嬢様のことはよく把握できますので、
もう少しそのおみ足を下ろしていただけますと、
わたくしの周囲に必殺技的真紅のエフェクトが発生せずに済むのでございますが。




