第19回 わたくしの生い立ちでございます (上)
かつてこの国には、魔物と呼ばれる生き物たちがいました。
地中から湧き出す、魔力の瘴気を吸って狂暴化した異形の存在でございます。
いまはその瘴気の源泉も止まりまして、もはや魔物は過去のものとなっております。
とはいえ、その名残ともいうべき巨大生物がたまにこうして、我々の前に姿を現すこともございます。
この猛獣、牛とカバとサイを合わせて割らなかったような身体をしています。
かつては地底魔獣ベヒーモスという、いかつい名前で呼ばれていました。
いまは瘴気の影響を受けてはいませんので、そのような名前は付いていません。
「前方を御覧下さい。オオウシカバサイでございます」
「わー! 本物だあ! すごーい!」
お二人とも、珍しい生き物に夢中でいらっしゃいます。
お喜びいただけて、なによりでございます。
あとはこの猛獣を仕留めるだけでございます。
まずは、場所を移動しましょう。
わたくし、胸元から真っ赤なハンケチーフを取り出しまして、ひらひらと振って見せました。
猛獣は興奮して突進してきましたのでハンケチーフをひょいとどけますと、そこには空間の渦ができております。
空間転移魔法により、わたくしと猛獣は、お嬢様とトモミ様から600メートルほど離れたところに移動しておりました。
唐突ではございますが、ここでわたくしがこのお屋敷でお嬢様にお仕えするようになった経緯をお話ししようと思います。
遠くではお嬢様とトモミ様がシートにおかけになって談笑なさっておいでですが、そちらとはまた別のことでございまして。
単にわたくしいま、猛獣の一撃を受けて天高く跳ね飛ばされておりますので、その走馬燈ついででございます。
オオウシカバサイは基本的には草食でございますが、
その超巨体を維持するためには肉も食します。
好き嫌いなく何でもたくさん食べるということは、とても素晴らしいことでございますね。
お嬢様はお野菜もお肉も残さずたくさん召し上がりますが、
同年代の方よりも多少身長が低いようでいらっしゃいます。
それでも、今朝と比較いたしますと0.05ミリメートル伸びておいでですよ。