第18回 さあ、“狩り”のお時間でございます
実を申しますとわたくし、最近鉄分が不足気味となっております。
1日に何リットルも鼻から血液を噴出させるためでございますが、そのことを踏まえますと、本日のお出かけは非常にタイムリーでございます。
新鮮なレバーをいただくことができましたら、当分は夜な夜なろうそくの灯の下で出刃包丁を舐めて鉄分を補給する必要がなくなりますので。
ただいま、午前10時過ぎでございます。
これから狩猟に出かけるには、少々重役出勤気味ではございますが、取り立てて問題はございません。
わたくしが指パッチンをいたしますと、お嬢様のお部屋のドアがひとりでにギイィとひらきまして、その向こうには緑に煙るなだらかな草原が広がっております。
空間転移魔法の応用技――
≪執事的扉≫!!
外は柔らかい草地でございますので、裸足でも心地よくピクニックしていただけますかと。
あとは、おかけいただくためにハンケチーフをご用意いたしました。
この種も仕掛けもないハンケチーフ、手首のスナップでパサリと振りますとあら不思議、10倍くらいの大きさに広がりました。
これは魔法ではなく、ただの手品でございます。
ついでにお弁当のバスケットもお持ちいたしましたので、お嬢様とトモミ様には、ここでご自由に転がったり走り回ったりしていただけます。
ところでわたくし、狩猟用の武器を持っておりません。
本来この国では、狩りにプロのハンターが同行するのが主流でございます。
が、なにぶん、日ごろ懇意のマタギハンターはいま、隣国のナーラ国立公園に鹿煎餅を背負ってアニマルセラピーに出かけております。
そのため、
いま目の前にいる巨大な猛獣を素手で倒せるのは、わたくしだけでございます。
わたくしの故郷に、大変有名な怪物狩猟電子遊戯がございます。
大きな刀から飛び道具まで、豊富な種類の武器を使用して楽しむことができます。
ただ、徒手空拳はございません。
無手のように見える透明な武器はございますが、全くの無装備での戦闘はできません。
このように、フィクションでありましても一定のリアリティーは必要と存じます。