第149回 スキー山荘殺人事件でございます (下)
お昼過ぎになりました。
この密室完全犯罪の謎が一向に解けないまま、犠牲者は次々に増えていきます。
わたくしがうつ伏せに死亡しております近くに、ソファがございます。
どなたも見ておられない間に、人知れずトモミ様が横たわっておられました。
お昼ご飯の後、このストーブのぽかぽかしたお部屋でのお昼寝の魔力に抗えなかったのでございましょう。
更には、あのヌパン様も。
ヌパン様は奇妙にも、天井に全身をめり込ませた状態で発見されました。
盗みのための潜入術の練習として、建造物の一部になりきり気配を消したためと思われます。
これで、この建物には生き残った方はもはや誰一人……
その時、奇跡が起こりました。
ストーブに薪を入れる方がおられなくなったため、ストーブの火が弱まりました。
すると建物内部の気流が変化いたしまして、リビングルームに向かって他のお部屋から空気が流れ始めたのでございます。
他のお部屋とは、お嬢様のお倒れになるお部屋でございます。
お嬢様のほんの微かな匂いが、わたくしの所まで届きました。
わたくしはギュルルと回転しながら跳ね起きまして、リビングルームの中央に恭しく直立いたしました。
これぞ執事魔法――
≪執事起床≫!!
そのままどなたにともなく語り掛けます。
「わたくし、執事でございます。この度の事件、既に謎は解けております。犯人は一つ、隠しごとをなさっておられました。昨晩のことです。このお部屋からはお手洗いのドアが見えます。夜間は暗いので、薄っすらとではございますが」
わたくしは語りながらつかつかと歩を進めます。
「犯人はあの夜、お手洗いに行きました。ですがそれを隠されました。正直におっしゃると、ご一緒の方のアリバイが崩れてしまうためでございます。あと、わざわざそう発言なさるのがお恥ずかしかったということもございます。
ともあれ、真犯人『白雪の悪魔』は、その天女の羽衣とも例えられる純白のスキーウェアで現れ、わたくしは夥しい量の鼻血を噴出してしまった、というわけでございます」
わたくしはお部屋のドアをすっと開けました。
「ですね、お嬢様。……さあ、軽食をご用意いたします。雪も収まりましたし、戻ることといたしましょう」
まったくいつもの執事でございます。