第147回 スキー山荘殺人事件でございます (上)
この辺りには、こういう言い伝えがございます。
吹雪を逃れて山小屋に泊まり込んだ男女のもとに、白い雪のような人影が現れます。
その人影は悪魔の化身で、うかつに侵入した人間を次々に殺害して回る、と。
そのようなことをわたくしが怪談っぽくお話ししまして、その晩はお休みのお時間になりました。
そして翌朝。
「まあ、大変」
お嬢様の新雪に煌めくような麗しいお声で、皆様がリビングルームに集まられました。
「あら、サンが死んでいるわ」
トモミ様のおっしゃる通り、そこには変わり果てたわたくしの姿が発見されました。
「これは……明らかに殺人ですね」
ヌパン様が、一目見るなり断言されました。
現場のご様子をご説明いたします。
わたくしは、リビングルームの中央部、テーブルとストーブの間に、うつ伏せに倒れております。
顔面から夥しい量の血液が流れ、失血死と推察されます。
ストーブの火はついてはおりませんが、昨夜からの火種は灰に埋もれてくすぶっておりまして、すぐに着火は可能となっております。
テーブルの周りには木製のベンチが2脚ございますが、特に動かしたようなあとはございません。
おや、わたくしが右手の指を伸ばしておりますね。
顔面から流れて床に広がりました血液をインクにいたしまして、何か書こうとしたようにも見えます。
ダイイングメッセージ、というものかも知れません。
なお、小屋の外は雪がたっぷりでございまして、とても外からここに来ることは出来ません。
つまり。
わたくしを殺害なさった真犯人、『白雪の悪魔』はこの中にいらっしゃいます。
ミステリー的なストーリーになっておりますが、中身はいつもの執事的なストーリーでございます。
特に頭を使わず、リラックスなさってお楽しみいただけると幸いでございます。