第146回 冬山の出来事でございます
たっぷりと遊びまして、ゆるゆる日も落ちて参りました。
そろそろお帰りのお時間でございます。
が、折りしも辺りは荒れ模様になって参りました。
「師匠、この吹雪はお嬢様の魔法でしょうか?」
ヌパン様がこっそりとわたくしにたずねられますが、わたくしはいいえとお答えいたしました。
「視界の悪い中、このまま無理に進みますと遭難の恐れもございます。ので、皆様。右手をご覧下さいませ」
わたくしの示しました方向に、薄っすらと明かりが灯っております。
「このようなこともあろうかと、わたくし山小屋をご用意いたしておきました。どうぞお入り下さい」
雪がもこもこと積もりつつありますので、短距離の空間転移魔法を使用いたします。
わたくしがストックを一振りいたしますと、ぐにゃんと空気が丸く歪みまして、次の瞬間には丸太を組み合わせて作りました山小屋の中でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事山荘≫!!
中にはストーブもございますので、大変暖かくお過ごしいただけます。
お部屋もいくつかございますので、お嬢様とトモミ様へのご配慮も申し分ございませんかと。
もちろん、エヴァーウッド侯爵様にはあらかじめ、外泊許可をいただいております。
ストーブに当たりまして皆様がほっと一息つかれましたところで、わたくし懐から非常食の袋を取り出しました。
わたくしの故郷では即席ラーメンと呼ばれております麺料理でございます。
ストーブの上にお鍋を置きましてお料理いたしますのも乙なものでございます。
しかし、この時――
この閉ざされた空間であのようなことが起ころうとは、わたくし以外の誰一人として想像だになさっておられませんでした。
お先にネタバレを申し上げますが、あのようなこととはスキーロッジ殺人事件でございます。
被害者はわたくしでございます。現場は陸の孤島でございます。
容疑者には皆様アリバイがございます。
さて、どなたが犯人でございましょうか。