第144回 ウィンタースポーツでございます
お嬢様とわたくしがお世話になっております、ここエヴァーウッド領は、冬場はそれなりの降雪が観測されます。
とは申しましても、こちらは平地でございます。
高原地帯であります、お嬢様のルビンフォート領ほどの、情け容赦のないドカ雪はそうそうございません。
道をふさぎそうな分だけ雪掻きをしてしまえば、後は概ね問題なく領民の生活は維持出来ます。
ただ、お嬢様とトモミ様が街に出かけられて人々とお話をなさった際、このような話題がございました。
「え? ここの人たちって、スキーとかあんまりしないの?」
「そうね。山の近くに住む人はともかく、街のほうだと道具もなかなか売っていないわ。なくても困らないもの」
お嬢様はお帰りになってから、ちょっぴりホームシック気味なお顔をされました。
そのような時こそ、わたくしにお任せ下さいませ。
お嬢様の精神的健康管理は、この執事の役目にございます。
と、いうわけでございまして、水を得た魚ならぬ仕事を得た執事は早速任務に取り掛かります。
今回はお嬢様がスキーをお楽しみいただけるよう、スキー場の設営からスタートとなっております。
先日からわたくしの口内とお屋敷跡のポストとを接続いたします空間転移陣、あれの応用でございます。
まず、遠隔操作で1000キロメートル離れたお屋敷跡周辺に空間転移陣を多数配置いたします。
それからエヴァーウッド家が所有しております裏山に参りまして、自生しております植物たちにはちょっと場所を貸していただきます。
もちろん後でお返しいたします。
後は斜面に向かって口からおびただしい量の雪を吹きつけるとあら簡単、スキー場に早変わりでございます。
仕上げにわたくしが斜面をごろごろと転がって登りながら圧雪して参ります。
この回転上り坂、将来的には「クロスカントリーシツジー」という名前で、
冬季オリンピックの競技に採用されるとかされないとか。