第142回 お嬢様、投擲用枕でございます
おかげ様で宴もたけなわ、すっかり夜も遅くなって参りました。
わたくしは特に問題ございませんが、他の皆様はそろそろお休みのお時間となって参ります。
ヌパン様にも客室をご用意いただきまして、本日のところはこれでお開きの運びでございます。
「いかがでございましたか、ヌパン様。お嬢様と仲良くなって至宝を盗んじゃおう作戦、続行は可能でしょうか」
「はは、今回も私の完敗のようです、師匠。あの宝玉は空の果てに消えていってしまいました。こうなると手の出しようがありません」
ヌパン様は客室の前で、やれやれと両手を広げられました。
わたくしの師匠呼びも定着しそうでございます。
「ですが、あなた方とはこれからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたしたいところです。まだまだチャンスはありそうですからね」
「そうおっしゃっていただけると光栄でございます、ヌパン様。どうぞごゆっくりなさって下さい」
わたくしが廊下の夜間照明をしようと歩いておりましたら、お嬢様とトモミ様のお部屋の中からどっすんばったんと音が漏れて参りました。
その音と振動から察するに、どうも枕投げを嗜まれておいでのようでございます。
スポーティーでアクティブなことは大変健康的でございますが、お嬢様が全力で投げていらっしゃる枕は、エヴァーウッド領で取れる最高級の羽毛をふんだんに使用した、枕職人の魂が宿った逸品でございます。
トモミ様もお嬢様に合わせて下さっておりますが、ここはわたくしがさりげなく止めに入りましょう。
まず、わたくしの体重を100分の1にプシューっと減少させます。
骨に含まれるカルシウムも体内を流動させまして、頭蓋骨を中心に全体的にふわふわになります。
これぞ執事魔法――
≪執事風船≫!!
わたくしを枕として投げていただければ、執事として本望でございます。
散々投げつけていただいた後は、決して抱き枕などにはなさらず、くしゃくしゃっと丸めて廊下にポイしていただけますと、執事として至高の栄誉にございます。