第139回 居候お嬢様でございます
お屋敷が消滅いたしましたので、トモミ様のお部屋でしばらく住まわせていただけることになりました。
お嬢様は大喜びでいらっしゃいます。
トモミ様もお喜びではございますが、大層心配そうなお顔をなさいました。
「サン。お屋敷の再建について、こちらからも何か出来るよう、計らってみるわ。貴方一人で何とかしようとしないで。ジョーのことはもちろん、貴方も大切な「うわぁーい! トモミと一緒に暮らせるわー! やったー!」」
お嬢様が大型犬のように雪上を転げ回っておられます。
そのはしゃぎっぷりに、トモミ様もすっかりお肩のお力が抜けてしまわれました。
「では、行きましょう。ヌパン様、貴方もどうかお越し下さい。ジョーのお友達は私のお友達です。是非、当家を挙げて歓迎させて頂きたいのです」
ヌパン様は完璧な紳士の作法で、謹んでお受けになりました。
空間転移の魔法陣によりお嬢様たちとお荷物をお先にお送りいたしましてから、わたくしは木箱をこしらえまして、お屋敷跡にざくっと立てておきました。
立札もご用意いたしまして、『お嬢様はただいま留守にしております。領地に関するご相談は、こちらの執事ポストにご投函下さい』と記しておきます。
箱の中には小さい空間転移陣を残しておきまして、転送先はわたくしの口の中に設定しておきます。
転送されますとわたくしの口からベロベロベロベロっと手品のごとく排出されます。
これで、わたくしはいただいたお葉書を速やかにお嬢様にお伝えすることが出来ます。
これぞ執事魔法――
≪執事投書≫!!
トモミ様のお部屋にお邪魔いたしまして、お嬢様のお荷物を広げさせていただきます。
トモミ様は客間を手配なさろうとされましたが、お嬢様のたってのご希望により同室となりました。
これも執事的生活設計の一つ、いえ、ひとえにヌパン様のおかげでございます。
客間には、畳と呼ばれるマットが敷かれております。
イグサという植物の匂いがとても心地よいお部屋でございますが、お嬢様は気持ちが引き締まりすぎて宿題を頑張らなければならなくなるから、とおっしゃっておられました。
そう考えますと、やはり客間の方がよろしかったかも知れません。