第138回 お嬢様、お引越しのお時間でございます
そろそろ夕方になって参りました。
遠くでカラスが鳴いております。
カラスが鳴くからかーえろ、とわたくしの故郷に伝わる歌もございます。
しかしお屋敷は、綺麗さっぱりとございません。
「ど、どうしよう。わたしが、変なこと言ったから、バオバブ様が……」
お嬢様はお顔を青くされました。
伝説の宝玉よりも、わたくしそちらの青色の方が美しいと思われます。
まあそのままではお嬢様の精神衛生上よろしくありませんので、僭越ながらフォローを入れさせて頂きます。
「お嬢様。どうかお悲しみにはなりませんよう。バオバブ様は老木でございました。あれは老木における世代交代のワンシーン、自然の摂理でございます。わたくし、既に次世代の種をお預かりいたしております。次のバオバブ様がお育ちになりましたら、またお屋敷をご用意いたしましょう」
そう申し上げるわたくしの頭上に、お嬢様のお部屋にございました、お嬢様の持ち物がすとととっと降って来ました。
わたくしが、執事流転送魔法の応用で取り寄せたものでございます。
上から順に、
洋服ダンス、
鏡台、
鉢植え、
学習机の横のチェスト、
通学カバン、
食べかけのお菓子、
ご使用済みのちり紙、
練習用の魔法剣、
となっております。
雪で濡らすといけませんので、全てわたくしの頭で支えております。
そのまま、くるりとトモミ様の方へ向き直りまして、改まりまして頭を下げます。
「トモミ様。お嬢様のお屋敷、完成には春までかかります。つきましては、それまでお嬢様をトモミ様のお部屋にてお預かり頂きたく、お願い申し上げます」
ご使用済みのちり紙は適切に処分すべく、わたくしそっと自分のポケットに入れておきました。
適切かつ処分でございますので、もちろん大丈夫でございます。
当然、合法でございます。