第137回 鬼祭りでございます (下)
「こ、こんにちは。わたっわたし、ジョーです。よ、よろしゅくお願いしままます!」
被り物をお取りになられたお嬢様が、盛大にお舌をもつれさせながらもヌパン様にご挨拶をなさいました。
お嬢様は人見知りの仕方が変わっておられまして、初対面の方にはひどく緊張されます。
その緊張を早く解こうと努力なさるのは素晴らしいのですが、大抵の場合変なことを口走ってしまわれます。
それがお滑りになり、その余りのしょうもない寒さがストレスによる魔力暴走と掛け合わさりまして、猛吹雪などの災害級魔法を引き起こしてしまわれる、という寸法でございます。
以前、ヌパン様は、そのお嬢様の魔力暴走によりお屋敷ごと大爆発に巻き込まれました。
今回は対策といたしまして、お嬢様と仲良くなって魔力暴走を防いでしまおうというおつもりでございます。
わたくしにとりまして、お嬢様のお友達が増えてお嬢様の人生が実り多いものになることは大歓迎でございます。
そのためならば、世界の均衡を保つ至宝を差し出すことなど、造作もございません。
「では、お嬢様。わたくし、一時御前を辞しまして、この被り物セットをお屋敷の物置にしまって参ります。それまで、どうぞトモミ様にヌパン様を交えましてご歓談の程を」
鬼祭りの仕上げに、お庭の前から家に向かって豆を撒く、というものがございます。
地域によっては家の中からお庭に向かって撒く、というパターンもございます。
所構わず撒きまくる、というパターンもございますが。
で、わたくしが一人で精霊石ごと被り物を片付けることで、あえて隙を生じさせました。
さあ、お嬢様とヌパン様が親睦を深めるチャンス到来でございます。
が。
「鬼はーそと! 福はーうち! ……うちはーそと! うちはーそと!」
お嬢様が緊張の余り妙なお掛け声と共に豆を撒きますと、どこかからカチッと音のようなものがいたしました。
お屋敷の根元からボフンと煙の輪が出たかと思いますと、お屋敷は少しずつ加速しながら真上に浮いていき、炎を噴射しつつ空の彼方に消えていきました。
後には、落下して人型のゼリー型を地面にこしらえたわたくしが残りました。
良い子の皆様は、天気のいい日に長時間お顔を上げて日光を直視なさったりしますと、
目が―。目がー。
となりますのでご注意下さい。