第136回 鬼祭りでございます (中)
お屋敷に戻っております道中、通りの向こうから歩いて来る人の姿がございました。
人気のない細い道でございましたが、まっすぐ続いております。
わたくしの視力と気配探知力を以っていたしますれば、通りの隅々までの生命反応を感知することが可能となっております。
ところが今回、わたくしはその人影が、900メートル先に来た時点でようやく気づくことが出来ました。
抜群の隠密能力、ここまでのことが出来るのはわたくしのライバルをおいて他にはございません。
「ヌパン様。ようこそお越し下さいました。お久しゅうございます」
5メートルの距離まで接近しましたところで、わたくしは恭しく頭を下げました。
「サン殿。この度も、こうして餌につられてのこのことやって参りました。よろしければまた、1手ご指南の程を」
5メートル先に立っております長身の好青年もまた、人当たりの良い営業スマイルで綺麗な返礼をなさいました。
「ありがとうございます。ヌパン様のためにこちら、大地の至宝たる、蒼碧の精霊石をご用意いたしております。お嬢様のお被りになる獅子頭の額でございます」
ヌパン様は、いきなり目の前にお宝が剥き出しになっておりましたので、多少びっくりされたようでございます。
「素晴らしい輝きですね。しかし、この状態から盗み出すのは、わたしには荷が勝ちすぎるようです」
ヌパン様はばつが悪そうに苦笑いを浮かべられました。
美男子はどんな表情をしても絵になるものでございます。
「いいえ、前回はほとんどヌパン様の勝利のようなものでございました。そして今回、ヌパン様は既に対策をご用意なさっておられることと存じます。それが、わたくしの望みとピタリと一致いたします。すなわち」
ヌパン様には、お嬢様とお友達になっていただけると幸いでございます。
わたくしといたしましては、世の中のイケメンには残らずパイ投げをいたしたく存じます。
が、それはそれ。これはこれでございます。