第135回 鬼祭りでございます (上)
唐笠模様の布をすっぽりとお被りになり、額に宝玉の埋まった獅子頭を乗せられたお嬢様が、雪道をてくてくと練り歩かれます。
その後ろを、主様が超低空飛行で長い胴体をぬるぬると棚引かせつつお供いたしております。
「泣く子はいねーかー。宿題をしてない子はいねーかー」
本来、この怪物『ナマハッゲ』の役をするのは大人の男性でございます。
が、なにぶん、大人の男性でありますわたくしはいま、悪い子として簀巻きにされて縄に繋がれ、主様にずるずると引きずられております。
そのため、この鬼祭りの代表として怪物役が出来るのは、お嬢様だけでございます。
「がおー。がおがおー。ぼぼー。どーん」
お嬢様は精一杯、脅しを含んだ声色をお出しになっておいでですが。
誠に遺憾ながら……どう頑張られても、鈴を転がすような愛らしいお声でございます。
ああ、この執事がもっと悪くない子でございましたら、必ずやお力になれましたものを。
くっ。
まあそのような感じで領内のお宅訪問はつつがなく終了の運びとなりました。
お嬢様は全く怖がられなかったため、主様が後ろから控え目に吼えて下さいました。
わたくしはその一部始終をにこにこと拝見しておりましたので、そろそろ全身の鼻血タンクがつつがなく終了の運びとなりそうでございます。
さて。
この鬼祭り、わたくしが後ろに控えておりました理由はもう一つございます。
お嬢様が仮装に使われました怪物の装束、その額の部分に青く美しい宝玉がついております。
わたくしがお正月の時に、旦那様からぬけぬけとせしめ……
快く頂いた秘宝でございます。
売却いたします前に、ちょっと用途がございまして。
これを目当てに、怪盗ヌパン様にまたちょっと遊びに来ていただこうと存じます。
人が龍に変身する、という設定は、わたくしとても大好きでございます。
この物語とは一切関係ございませんが、何故か突然白状したくなってしまいました。