第134回 欲張り犬と肉でございます
大きな大きな布袋に、ずっしりと炒り豆をこさえまして、主様のいらっしゃる滝壺までねばねばと持ち運びます。
辺りはすっかり雪に埋もれておりまして、滝も凍りついております。
滝壺だけが、井戸のようにぽっかりと穴を開けて、わたくしのお持ちするおやつを待っているようでございました。
「と、いうわけでございまして。お嬢様が唐草模様の布をお被りになって練り歩かれますので、後ろをふわふわと飛んでついて来ていただきたく」
ばさばさと豆を放り込みますと、滝壺の底が渦巻きまして豆は跡形もなく飲み込まれました。
OKかと存じましたが、泡がぷかりと浮いてきました。
おかわりの催促でございます。
同じものを同じようにばさばさと投入いたしましても、恐らく埒があきません。
そこでこの執事、空っぽの布袋をちょいと頭から被りました。
もぞもぞいたしますこと5秒、袋をどけましたらそこにはお嬢様のお姿でございます。
ただし中身はわたくしでございます。
要するに精度の高い変装でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事偽装≫!!
主様はお嬢様によく懐いておいでなので、お嬢様のお姿で豆をばさばさされては聞き届けざるを得ません。
これにて作戦、大成功でございます。
本物のお嬢様はただいまトモミ様のお部屋にて宿題中でいらっしゃいますので、この雪深い場所までご足労頂くわけにも参りませんので。
ところで。
水面に映っております、天使もひれ伏す愛らしいお嬢様のお顔がわたくしの目に飛び込んで参りました途端、鼻血と共に変装が解けまして、主様にちょっと噛まれました。
再度変装することにより、何とか改めて了承を取り付けましてございます。
この寓話、鏡に映った自分自身に見とれないように、という素晴らしい教訓と共に後世に伝わったり伝わらなかったりいたします。