第128回 雪女の伝説でございます
雪のお城は領内でたちまち話題となりまして、多くの領民の方々にお越しいただきました。
お嬢様は入場料として現金は徴収なさいませんでしたが、代わりに……
「雪玉を1人1個、持って来て下さい。それが入場料となります。大きさは自由です。小さな子供やお年寄りは無理のない大きさにしていただいて結構です」
大変素晴らしいアイディアでいらっしゃいます。
わたくしの故郷にも、新年の城郭の一般開放において、入場料を現金ではなく石で持ってくるようにさせた例もございます。
手軽な大きさで気軽に持ってくることが出来るため領民との親睦も深めやすく、石自体は石垣の材料に使えるという、一石二鳥のイベントだと記憶いたしております。
「じゃあよーい……スタート!」
まあお嬢様は子供たちと雪合戦を始められましたが。
さて。
貴族としてのお勤めはご無事に果たされておいでですが、お嬢様はこの冬休みが始まりましてから、宿題をちっともなさっていません。
今回の雪のお城も、魔法の練習用にとご用意いたしましたが、お嬢様は中でトモミ様とお餅をこっそり焼いて召し上がっておられたりしています。
お勤めをきちんとなさっておられる関係上、強く申し上げるわけにも参りませんね。
そこで、今回は情に訴えることといたします。
まず、わたくしの体温をマイナス60度ほどに下げます。
それから水をかぶりましてカチカチに凍結いたします。
その姿で、夕食後にお嬢様のもとにお伺いいたします。
「カチカチ。お嬢様。わたくしは山の精霊と約束をいたしておりました。お嬢様が宿題を欠かさずなさる代わりに雪のお城を使ってもいいと。カチカチ。しかしお嬢様は宿題をなさらないためこのように罰が当たりました。どうかこれからはお心を改め、毎日こつこつ宿題をなさって下さいませ。ぐふっ。カチーン」
オベリスクに閉じ込められた氷像に必死に謝られるお嬢様と、それを眺めながらのんびりお茶を召し上がるトモミ様。
静と動の構図でございます。
体温を550度くらいに上げればすぐに氷は融けます。
ただ服は燃えつきますが、それはいつものことでございます。