第124回 お嬢様、明けましておめでとうございます (中)
外も明るくなって参りました。
露天風呂から上がられまして、お嬢様とトモミ様はぐっすりモードでございます。
例によりまして、ご入浴シーンはカットいたしておりますので、各自脳内補完の程、宜しくお願い申し上げます。
で、わたくしは、バオバブ様のてっぺんから高々と凧を上げております。
その凧に乗りながらシャボン玉を膨らませ、シャボン玉の中に映っております人物とお話いたしております。
「旦那様、あけおめでございます。更には、ことよろでございます。つきましては、お年玉をいただきとう存じます」
『うむ。大儀だ。しかし今は書留を転送している暇がない』
シャボン玉の中の旦那様は遺跡の探索中でいらっしゃいまして、地下深くの迷宮を守護する大型の半人獣と剣を合わせていらっしゃいます。
鍔迫り合いが弾かれまして、両者下手には動けない緊迫した場面でございます。
「左様でございますか。では旦那様、ただいまお手持ちはいか程でございましょう」
『ここには売店などないのでな。精々コインが数枚だ』
旦那様は半人獣の一瞬の隙をつきまして、大きく飛び上がり大上段から渾身の切り下ろしを放たれました。
「おや、今カチャリと音が鳴りましたね。コインではない音のようでございます」
わたくし、指をくるりと回しますと、シャボン玉の表面に球形の光の魔法陣が浮かび上がりました。
旦那様の腰袋にも同じ魔方陣が展開されます。
するとシャボン玉の中に光り輝く宝玉が転がって参りました。
これぞ執事魔法――
≪執事注文≫!!
天空のように深く青い輝きを持つ秘宝≪波濤蒼碧≫、お嬢様へのお年玉ゲットでございます。
旦那様が腰袋を探っておられる後ろから次の半人獣がぬっと姿を現したところで、宝玉の重みでシャボン玉が割れ通話が切れました。
世界の均衡を保つ程の重要アイテムではございますが、まあ大丈夫でしょう。
旦那様がそのうちどこかから買い戻されると思いますので。