第123回 お嬢様、明けましておめでとうございます (上)
ルビンフォート領の山中に古い社がございます。
そこで、雪の降りしきる夜中から日の出にかけまして、年越しの儀を済まされました。
年越しの儀においては、精霊の巫女たちによるお勤めがございます。
が、なにぶん、他の巫女役の女性たちはみな、今年も足に根っこが生えてしまったかのようにこたつに貼り付けになっております。
そのため今年も、巫女の役目を全てこなすことが出来るのは、お嬢様だけでございます。
お嬢様はその中で、
祭祀の方より頭からキンキンに冷えたお水をざんぶとかけて頂いた後に、
燃え盛る焚火を駆け抜けられ、
ごうごうと轟く滝壺にダイビングなさってから、
びしょ濡れで寒風に貼り付くお衣装をまとわれたままお祈りのお言葉を長々とそらんじられ、
そのままのお姿で松明を両手に握りぐるぐる振り回すファイアーダンスを演じられ、
ようやく最後、日の出とともに、暖かーいお茶と薬膳スープを、
召し上がることなく参拝客の皆様にふるまわれました。
その間、お嬢様はただの一瞬もお顔をしかめることなく、真剣なご表情で、または満面の笑みで、熱心に領民のために尽くされておいででした。
トモミ様はぎゅっと両手を合わされて、お嬢様がご無事にお勤めを果たされるよう念じておられました。
「ただいま、サン。お待たせ。今年も何とかうまくいったわ。トモミ、わたしを心配してくれたのね。ありがとう」
すべてのプログラムが終了いたしましてお屋敷にお一人で戻られたお嬢様は、開口一番、ご不満も困憊も口になさらず、わたくしとトモミ様を労われました。
「ジョー! お帰り! お疲れ様! すごく立派だったわ! あなたの所は毎年あんなに大変なことしていたのね。巫女の服も髪の毛も、まだびしょびしょじゃない。とにかく乾かして、すぐに温めないと!」
「お嬢様。今年も素晴らしゅうございました。お嬢様の分の羊と蕪の薬膳スープ、こちらにご用意いたしております。お召し上がりの後は、トモミ様とご一緒にご入浴ください」
お嬢様がスープを召し上がっている最中、お目を伏せられながらもまつ毛の先がキラリと光ったのを、わたくしは確と拝見いたしております。
新年早々ヘヴィーかつドMでございましたが、後はもう寝正月でございます。
皆様もどうぞ、お肩のお力をへにょんと抜いてご覧下さいませ。