第121回 未来への祈りでございます
寒さの厳しい冬の朝でございます。
わたくしは天井をカサカサぬめぬめと這い回り、曲者の痕跡など不審なところがないか点検いたしております。
普段はこのようなことはするまでもございませんが、ここはルビンフォート領ではございません。
念のため、というものでございます。
おかげで邸内の警護に当たっております騎士の方々に追い立てら……
親睦を深めることも出来ました。
お部屋から、お嬢様とトモミ様の控え目な歓声が聞こえてきました。
「まあ……素敵ね!」
「サンタさんが来てくれたわ! トモミのところも?」
わたくしは執事でございます関係上、植物とテレパシーでコミュニケーションを取ることも出来ます。
庭木の手入れもそうですし、バオバブ様のお世話もそうでございます。
鉢植えと扉を挟んで、お部屋の内部の様子も手に取るように分かります。
当然、護衛のためであり他意はございません。
「これ、調べたことがあるの。ジョーの住んでるルビンフォート領にしかない、クリムゾンラベンダーね。花言葉は『時空を超えて』……。こっちの気候でも栽培できるかしら?」
「わたしのは名前とか分からないけど、何だかいい香りのする木の実がいくつか生ってるわ。1個ずつ食べてみましょう? はい、トモミ」
「ジョーったら。ありがとう。……あら、次のがもう実ったわ。すごいのね」
「食べてもなくならないフルーツ? サンタさん、まるでわたしたちの一番欲しいものが分かってるみたいね!」
「……ええ、きっとそうね。さあ、ジョー。支度をしましょう。聖誕祭の翌朝は、感謝のお祈りがあるのよ。お坊様の長ーいお説教もあるわ。頑張って聞くのよ?」
それからお二方は立ち上がるとお召し物をお脱ぎに――
鉢植えとの通信が何故かいきなり途切れました。
クリムゾンラベンダーの花言葉は、一見枯れ果てたようでもいつの間にか別の場所に花をつける性質に由来いたします。
まったく生命力たるやゴキブ……
執事のように元気いっぱいの植物でございますね。