第119回 プレゼント交換でございます
夜も更けまして、大広間での社交の場はお開きになりました。
お嬢様はトモミ様とご一緒に、トモミ様のお部屋にてお寛ぎでいらっしゃいます。
わたくしは一介の使用人、執事でございます。
夜遅くに、貴婦人の私室に入り浸るものではございません。
お部屋の前に、頭にかぶっておりました聖なるモミの木をどっすんと安置いたしまして、その場をそっと辞すことといたします。
「ねえねえトモミ。わたし、あなたにお土産を持ってきたの! はい!」
「まあ。嬉しいわ、ジョー。開けてみてもいい? あら、綺麗な砂糖菓子ね。虹色に輝いているわ。……じゃあ、私からも贈り物。はい」
「え……! これ、トモミの着物じゃないの!」
「お古でごめんなさい。私には小さくなってしまったの。よかったら着てみて?」
「すごく綺麗……。わたしにはもったいないわ。それに、わたしが上げたのなんて、食べたらなくなってしまうのに……」
「食べたものは決してなくならないのよ、ジョー。思い出と一緒に、ずっと身体の中に残ってくれるから。それに、この着物、私があなたくらいの頃に着ていたの。あなたにも着て欲しいの。受け取ってくれるかしら」
お嬢様が頂いたのは、華やかかつ上品な桜色のお着物でございました。
染付がグラデーションになっておりまして、お足元へ行くに従いまして、色がゆっくりと草の色に変わって参ります。
季節の移り変わりを子供の成長になぞらえて仕立てられた、作り手の思い遣りの込められた逸品でございます。
「まあー。とってもよく似合うわ、ジョー。じゃあ、ちょっとこっち持つわね。えいっ」
「あ~れ~!」
トモミ様が帯留めを引っ張りますと、お着物ははだけませんがお嬢様はくるくると回転なさいました。
お二人ともとても仲が良く、何よりでございます。
ところでわたくしがお部屋の内部をまるで見ているかのように申しておりますのは、扉の前を辞して壁の内側に入り込み、じーっと護衛をいたしておりますゆえにございます。
壁の内部は貴婦人の私室ではございませんので、これで職務を果たすことが出来ます。
もちろんお二人のお邪魔をいたしませんよう、細心の注意を払いまして気配を完全に消しております。
必要に応じて天井裏や床下にも移動いたしまして、お二人のご安全はじーっと抜かりありません。