第112回 冬休みでございます (中)
憲兵詰所から外に出ますと、アルギュロス殿下のお姿がありました。
コートをはためかせながら壁にもたれて腕を組む、とてもお嬢様と同年齢とは思えないいぶし銀の風情でいらっしゃいます。
「……ようやく釈放か。俺様が切り込むまでもなかったな」
わたくし、雰囲気をお出しするために両腕を自分で括り、くたびれた外套を羽織って無精髭を顔面にトッピングいたしております。
アルギュロス殿下の眉間に、ギリギリと弓を引き絞る音でも立てんばかりにしわが寄りました。
「あら、アル君。待っていてくれたのね、ありがとう。やだ、そんなに難しい顔しなくてもいいわよ。ね、せ・ん・せ・い?」
「は、トモミ様。お気遣い頂きまして恐縮に存じます。アルギュロス殿下、わたくし何とか極刑だけは免れました。並びに教頭室への突入、我慢して頂き感謝申し上げます」
「アル君……? いや、釈放云々は冗談だ。貴様の立場は分かる。教師としても、執事としても」
アルギュロス殿下は溜め息がてら背中を起こされると、すっと歩き出しました。
「事を荒立てたくはないのは俺様も同様だ。せっかくの留学にケチが付く。今回の件をアイツに話すほどおしゃべり好きでもない。用件はそれだけだ。休暇中は国元に戻る」
わたくし、アルギュロス殿下の背中にぽつりと呼び掛けました。
「殿下とここまでお話しすることが出来まして、光栄の極みに存じます。後ほど改めて、お嬢様から年始のご挨拶をいたしますが、わたくしからもおひとつ。『中等部にてお会いしましょう』」
アルギュロス殿下は、そのまま振り返ることなく歩いて行かれました。
「まあ……! そういうことなのね! サン、最高のニュースじゃない。内緒にしてたなんて、いけずね。でも、そういう男の友情、みたいなのもいいわね~。後で詳しく聞かせてね?」
トモミ様も、何かにお目覚めのご様子でいらっしゃいます。
お先に申し上げておきますが、
『そういう趣味』はございませんし、
『そういう展開』にもなりませんので、
ご期待頂いた方には誠に申し訳ございません。