第110回 学期末試験でございます (下)
試験の終了後、わたくし、校舎内を歩いております。
ただいま、全生徒の実技の採点中となっております。
職員室前は人払いがされておりますので、そちらではございません。
わたくしがおりますのは、教頭室前の廊下でございます。
「御機嫌麗しゅうございます、トモミ様」
廊下の先にトモミ様が、ますますお美しい真っ直ぐな黒髪で芍薬のようにお立ちになっていました。
「お久しぶり、サン。貴方を待っていた、と言ったら喜んでくれるかしら?」
「は。トモミ様、こちらに参りましたらお会い出来ると、わたくしも思っておりました。
この……教頭室の前にて」
わたくし、頭を下げながら、目をこっそりと細めました。
「……いつから、気づいていたの」
遠くの空に、うっすらと雷鳴のような音がしました。
お嬢様の魔法暴発未遂の残響でございましょう。
トモミ様は、冬の夜空もかくやとばかりの黒髪を全く揺らされることなく、お変わりなくお立ちでいらっしゃいました。
「トモミ様、恐れながらそれですとまるでトモミ様が真犯人か何かのように思われてしまいます」
「あら、嫌だわ私ったら。クラブ活動なの。不思議探検クラブよ。今は、学校の暗部を暴くことをしてるのよ。魔法使い誘拐事件のね」
「トモミ様に教頭室に踏み込まれるような、危険なことをおさせになるわけには参りません。従いまして証拠の方から出て来て頂きましょう」
わたくし、腕を伸ばしましてトモミ様のお肩越しに扉に手を付けました。
いわゆる壁ドンでございますが、扉から伝わる空気の振動がわたくしの骨伝導にて増幅されまして、あくどい会話の一部始終がわたくしのもう片手から流れて参りました。
これぞ執事魔法――
≪執事障子≫!!
次回も上中下となっております。
また、今週中にそれらをアップ出来ますよう、火・水・木曜日の夜に投稿いたします。
日付をまたぐこともございますが、よろしくお願いいたします。