第11回 呪われし運命でございます (下)
すっかり遅いお時間になりました。
宴もお開きでございます。
お嬢様は、わたくしの背中におかけになってすぐ、横になられてお休みになりました。
わたくし、あまり激しく振動いたしませんよう、尺取り虫のようにゆっくりと帰路についております。
乗馬の魔法の応用技――
≪執事揺籠≫……
このゆったりとした揺れが1/fゆらぎを発生させ、熟睡と疲労回復に効果があります。
お嬢様の超絶寒~~~~いダジャレにより、知らず消費なされた魔力と体力も、翌朝には元気いっぱいでございます。
お嬢様をベッドにお運びしましてから、わたくしにはもうひと仕事残っております。
先ほど巻き取って捕まえました、氷点下50度の寒気の渦でございます。
応接室から拝借いたしました、ワイングラスに入っております。
わたくしがチーズとともにいただいてもよろしいのですが、それでは芸がございません。
玄関ホールの吹き抜けに、ワイングラスを重ねたグラスタワーをご用意いたしました。
それを針金で固定いたしまして、上から吊るします。
それから、こちらの寒気の渦、わたくしの人差し指の先にちょいと浮かべまして、手首を軽くひねります。
コリッと軽快な音を立ててしまり、ビー玉のように凝縮されました。
キラキラと、青白い幻燈のような光を淡く放っております。
目にも楽しいものでございますが、これはグラスタワーのてっぺんにコロンと入れておきましょう。
ちょっとずつ溶けながら冷気を出してタワーからゆっくりあふれ、お屋敷を暑気払いしてくれる便利グッズとなりました。
これぞ執事魔法――
≪執事冷房≫!!
あしたからまた、快適なお仕事生活が始まります。
お嬢様とお帰りの際、あえてゆっくり歩きましたが、
これは当然、お嬢様のご安眠のためでございます。
べ、別に、お嬢様とちょっとでも長くスキンシップを取りたかったとか
そういうのじゃないんでございますからねっ。