第109回 学期末試験でございます (中)
お嬢様が舞台に上がられる際、お手でお口元を隠され、何かもごもごとなさっておられました。
わたくしの故郷に伝わる緊張解消のおまじない、人という字を手の平に書いて飲み込む、というものを実践なさっておいでかと思いきや。
お嬢様は屋台でご購入なさった石焼き芋を召し上がっておられました。
「え、えっと。ジョー・ルビンフォートです! 魔法剣をします!」
スカートのポケットをひっくり返され、焼き芋の皮がぽろぽろと落ちました。
更に、油のしみた新聞紙の切れ端もぱらりと落ちました。
屋台でご購入なさったじゃがバターも召し上がっておられたようでございます。
冷え込むこの時期はお芋さん、おいしいですからね。
で、お嬢様の魔法剣というお言葉に、周囲からどよめきが起こりました。
以前少し触れましたが、11歳で魔法剣を使える例はそうそう多くはございません。
注目が集まります。
「い、いきます。……ひっひっふー! ……ひっひっふー!」
筋肉をリラックスさせる呼吸のリズムで、お嬢様はご無事に、剣の先に気流の渦を発生させました。
そのままそーっと、手持ち花火で遊ぶように、床に落ちたゴミを刃先で吸着、圧縮してゆかれます。
周囲からは、拍手と歓声が巻き起こりました。
「これからは、一家に一本、魔法剣です! これがあれば、ゴミには負けん、ですから」
一瞬、凍りついたように拍手と歓声が中断されました。
身の毛もよだつほどの寒~~~~~~~~いダジャレとともに、気温ががくっと下がります。
このままでは猛吹雪が巻き起こります……が、ご心配には及びません。
お嬢様のお使いになられる魔法剣は、魔力をたくさん使います。
そのため、大寒波の魔法暴発は魔力不足により不発、災害は発生いたしません。
ただ、ちょっと強めの風が吹きまして、教頭先生のウィッグは天空へ飛翔いたしました。
以前少し触れました、と申しましても、そういう意味ではございません。
はて。少しどころではなく長時間背後からお手に触れていた……と。
思い出し鼻血でございます。
それはさて置き、この度またタイトルをちょっとだけ変更させていただきます。
『魔法執事の変態日記でございます。』
わたくし、自らを超人と呼ぶには僭越でありますゆえに。
大した違いはございませんが、これからも変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。