第108回 学期末試験でございます (上)
魔法学校の実技試験が始まりました。
校庭の中央に、広々とした舞台が設けられております。
舞台から離れた周囲には、学校の教師資格を持つ複数の試験官、来賓の方々、新聞や雑誌の記者、生徒の関係者、立ち見の一般客などが、専用のスペースに陣取っています。
試験内容は、ある程度自由課題となっております。
生徒の皆様は、おひとりずつ、練習や研究の成果として魔法を披露していくこととなります。
中には、やっぱり緊張してお腹が痛くなったりする子もいますが、そんな場合は一旦順番を後回しにしたりもしております。
今回わたくし、試験官ではございません。
が、お嬢様の晴れのお姿を特等席で拝見いたしとうございますので、こっそり実況解説席をご用意いたしました。
「――魔法で水の温度を直接上げる、素晴らしい効果でございました。火を起こす魔法よりも安全で効率がよく、これからの上達に期待が持てますね。
お次は隣国からの留学生でいらっしゃいます、アルギュロス・ポイニークーン殿下の番でございます。おや、従者の方が何やら大きな球の下がったポールを持って来られました」
アルギュロス殿下は剣を握られ、2メートル上の球をじろりと睨みつけておられます。
「アルギュロス殿下、剣を構えられました。あの球を割られるのでしょうか。しかし高さがございます。……おおっと、アルギュロス殿下、腰を落とすとお足元の空気がぐにゃりと歪みました。そのまま大ジャンプ、吊られた球に届いたばかりか見事な剣筋、球が一刀両断されました」
わたくし、割と早口でお届けいたしております。
「素晴らしい脚力強化でございました。割れた球から何か散っていますね。どうやらくす玉のようでございます。紙吹雪と、垂れ幕も降りてきました。これは、どれどれ、ほほう。『アルギュロス坊ちゃま、試験達成おめでとうございます! 爺や☆』……アルギュロス殿下の鋭い眼光とは逆に、観客の皆様の暖かい視線でございますね」
殿下の「爺や……」という呟きもばっちりここまで届いております。
さて、お次はようやくお嬢様の番でいらっしゃいます。
珍しくアルギュロス殿下の方をフォーカスいたしております。
お嬢様といつも仲良くしていただきまして、わたくしとっても感謝しております。
後で謎の虹色綿菓子の原料で作った飴ちゃんを差し上げましょう。