第107回 試験の朝でございます
晴天にめぐまれまして、絶好の試験日和となっております。
今朝は、早くから校庭に花火が打ち上がりました。
と申しましても、わたくしの仕業ではございません。
わたくしが朝に花火を打ち上げますのは、基本お屋敷のお掃除後でございますので。
今回は学校側の、試験を滞りなく催行いたします、という合図でございます。
まるでお祭り気分でございますね。
実際、学校の敷地内には、各所に出店が軒を連ねております。
お嬢様を始めといたします生徒の皆様には、浮かれることなく試験を頑張っていただきたいものでございますが。
と、愚痴っぽくなっても致し方ありません。
わたくしは、わたくしのなすべきをなすのみでございます。
「いらっしゃいませ。執事特製、謎の虹色綿菓子でございます。先日収穫いたしました、魔力の瘴気を浄化したものを100%使用いたしております」
わたくしの正体がバレるとよろしくありませんので、例によりまして変装いたしております。
ビン底眼鏡に七三分け、ダンディーなカイゼル髭は自力でのょっと生やしまして、服装もタキシードではなく腹巻にビーチサンダルでございます。
この綿菓子、お値段はおひとつ100NEYとなっております。
わたくしの故郷の通貨に換算いたしますと、およそ100円くらいでございます。
試験のおともに、糖分や魔力の補給が出来て、しかも華やかな見た目でおいしいと評価をいただき、飛ぶように完売いたしました。
お嬢様も2個をお買い上げになり、片方を道の向こうで虚空を凝視していらっしゃったアルギュロス殿下にお渡しになっておられました。
「はい、アル君! 買ってきてあげたよ!」
「アル君……? いや、礼を言う。何しろ俺様は素振りが忙しいのでな」
「やあねー、剣なんて持ってないでしょー! このこのぉー」
アルギュロス殿下はファンシーなお菓子をお買い求めになるのが照れくさいようで、お嬢様にご依頼なさったのですね。
お嬢様のお声は、どんなに離れて雑音が混じっても、わたくしはっきりと聞き取ることが出来ます。
これぞ執事魔法――
≪執事獄耳≫!!
遊びのイベントではございませんので、
学校側には苦言を呈すことも視野に入れておく必要がございますかと。
しかしその前に、わたくし型抜きと射的の屋台をご用意いたしますので。