第106回 お嬢様、そちらは残像でございます
お嬢様は、魔法の発動がとりわけ苦手でいらっしゃいます。
体内の魔力のコントロールがまだ上手くいかないのは、11歳前後の子にはよくあることでございます。
成長するに従って少しずつ上達したり、あるいは突然コツを掴んだりすることが多いようでございます。
つまり、今は出来ないからと申しまして、魔法が一生使えないわけではございません。
お嬢様はそれに加えまして、魔力を放出するきっかけ、トリガーが特殊でいらっしゃいます。
そのことに関しましては、以前ご説明いたしましたので、今回は割愛させていただきます。
お嬢様が人見知りの余り、恐ろしく寒~~~~~~~いダジャレを口走ってしまわれ、それが物凄い寒気と猛吹雪の魔法を巻き起こすことをここで申してしまいますと、お嬢様はお恥ずかしさに泣きべそをかいてしまわれます。
わたくし、それを想像するだけで顔面がテッカテカのつやっつやになり……
ではなく、お嬢様の望まれない結果になりますのでこの場では何も申しておりません。
「と、いうわけでございまして。お嬢様、これより魔法剣の発動練習に入らせていただきます。つきましては、わたくしがお嬢様の後ろから両のお手をお取りいたしますこと、どうかご容赦下さい」
「……う、うん。分かったわ。サンがそうしたいって言うのなら」
お嬢様もここで少し緊張気味の面持ちでいらっしゃいますが、ごくりと喉を鳴らされますとくるりと後ろを向かれ、わたくしがお取りしやすいよう、お手を軽く広げられました。
「ありがとうございます。では、失礼いたします。――お嬢様、剣を構えたままわたくしと呼吸をお合わせ下さい」
「う……うん。すぅー……ひっひっふー! ひっひっふー!」
わたくしと呼吸のリズムを合わせることで、体内の魔力の流動をエスコート出来ます。
ただ、わたくしはお嬢様とぴったり密着いたしておりますと、興奮の余り全身から鼻血を噴出して死んでしまいかねません。
ので、ここは高速でステップいたしまして分身し、エスコートは分身のほうに任せております。
よもや自分にジェラシーを燃やす日がこようとは思いませんでした。
おのれわたくし、そこ代わって下さい。




