第104回 秘密の猛特訓でございます
王立魔法学校の試験期間が普通の学校とはいささか異なる点、まだございます。
試験内容の公表を受けてから、生徒の皆様は準備期間に入りますが、その間は通常の授業がございません。
いわゆる、ずっと自習時間でございます。
大変うらやま……
何でもございませんが、もちろん、わたくし非常勤講師もそうでございますが、教職員の方々も常駐され、生徒の皆様の自主練習などに対しまして個別指導をおこなったりもされます。
それに従いまして、わたくし、ただいまお嬢様の魔法のお稽古中でございます。
夕方の、人気のない廊下でございます。
「お嬢様。この魔法剣を用いますれば、普段は届かないような天井の汚れも、たちどころにピッカピカと存じます」
「ありがとう、サン。私、ここの通りを全部綺麗にするまで今日は帰らないわ!」
お嬢様のご決意をちょっぴり意訳いたしまして、わたくし廊下を鼻血で汚してしまいました。
すかさずハンケチーフでそこだけ拭き取りまして、懐から取り出しました埃をパラパラとトッピングし直しまして事なきを得ました。
「うんしょ、っと……。なかなか、難しいわね、これ……。歩きながらだと、集中が、乱れそう……きゃっ!」
お嬢様がすってんと尻もちをつかれました。
弾みで剣先に凝縮しておりました埃の塊が、勢いよく射出されまして、廊下の向こうに飛んで行きました。
この魔法、本来は空気中の元素を集めて大爆発を起こす、非常に危険な大魔法でございます。
わたくし、学校の規則に従いまして、決して廊下を走らず一足飛びで埃の弾丸に追いつきハンケチーフでふぁさっと包みこみました。
爆発はごく小規模に抑えられまして、無事わたくしの衣服が全て吹き飛ぶだけで済みました。
放課後の人気のない廊下で、驚いて倒れこむ女生徒と全裸靴下で仁王立ちする男性教師。
試験はもう、すぐそこでございます。
折りしも、程よい角度でいい感じの西日が差しこんでおりましたので、
どなた様もご安心の圧倒的ギリギリセーフでございます。
従いまして、規約違反とかそういうことは一切ございません。