第103回 新必殺技でございます
懐に入れて温めておきましたお豆腐の串焼きを差し上げまして、無事、お嬢様にはご機嫌を直していただきました。
高タンパク低カロリーでございますのでダイエットには最適のおやつでございます。
なお、お豆腐の合間にネギも挟んでありまして、味付けは希少糖を使用いたしました秘伝のタレでございます。
それはさて置きまして。
王立魔法学校の試験期間が普通の学校とはいささか異なる点、もう少しございます。
魔法の試験は筆記と実技に分かれておりますが、実技は1日1科目まででございます。
それに伴いまして、実技試験のある日は他の試験はございません。
生徒の魔力と体力の回復のため、学校側の配慮でございます。
また、実技試験の間は校門が開かれまして、外部からの取材や視察が入ります。
試験の様子は後日、新聞や雑誌にも取り上げられます。
もしかすると、騎士団や研究室などからのスカウトもあるかも知れません。
「サン、私ね。実技では目立たなくてもいいんだけど、せめてまともな成績を取りたいの」
「は、お嬢様。承知いたしております。確かに実技で合格なさらなくとも、筆記が通れば落第はございません。が、実技はやはり魔法学校における花形でございます」
お嬢様には申しませんが、成績のことで他の生徒の方々への引け目がございますれば、学校生活の魅力も半減でございます。
さて。この執事、一計を案じました。
お嬢様に魔法をご使用いただくための、ちょっとした裏技でございます。
懐に入れて温めておきました剣を取り出します。
鞘を抜き払いまして、刃先を上に掲げます。
放課後の教室でございますが、練習用の軽い刺突剣でございますゆえ、ご安心下さい。
尖端に意識を集中いたしますと、剣先に黒い粒のようなものが現れました。
こちら、教室から集めました、埃でございます。
お掃除の魔法の応用技――
≪執事魔剣≫!!
それを、そーっとお嬢様にお渡しします。
「まあ。すごいわ、サン! 私も魔法を使ってるみたい!」
「いいえ、お嬢様。実際にお嬢様の魔力を消費して維持しております。その剣をゆっくりと、そちらの本棚の裏に差し入れてご覧下さい」
「わあー! たくさん取れるわ! 気持ちいー!」
しばらくは、これで練習いたしましょう。
狭い所もお掃除ラクラク。
一家に一台、貴方の執事でございます。