第102回 夜の人体模型でございます
お嬢様の通われる王立魔法学校、これより試験期間に突入いたします。
それにより、この学校全体が特別な雰囲気に包まれて参りました。
緊張しつつもどこかお祭り気分に浮かれているという、ちょっと特殊な様子でございます。
実際、この学校は、普通の学校とはいささか異なる点がございます。
まず、試験期間自体がとても長く設定されております。
準備を含め、実にひと月近くに及びます。
生徒の皆様は試験内容を公表されてから、急いでその対策にかかるわけでございますが、内容もそれなりに多岐にわたります。
数学や国語、外国語に歴史など、一般教養ももちろんございますが、やはりここは魔法学校。
魔法に関する専門知識や技術を試されるものに比重がかかっております。
で、お嬢様は魔法実技に関しまして、これまで軒並み悲しみに包まれる結果を残されています。
「試験……そうね。私、自分の体重のことだけで頭がいっぱいだったわ」
「お嬢様。試験に集中なさっていただくために失礼を承知で申し上げます。誠に勝手ながら、先程お嬢様の健康状態をご確認させて頂きました」
わたくし、眼球より微弱なX線のようなものをこっそり照射いたしまして、人体を透視することが出来ます。
これぞ執事魔法――
≪執事検査≫!!
「断じて覗きなどではございませんが、それによりますと、お嬢様の増加された体重のうち、25%が血液や内臓、30%が骨、22%が筋肉と皮膚、ということになっております。これらは素晴らしき発育の成果でございます。残り23%、およそ460グラムが増加された脂肪でございますが、お嬢様はこれまで皮下脂肪は医学的に見ましてもむしろ不足気味でいらっしゃいました。それを差し引きまして、落とすことの可能な脂肪はおよそ300グラム程度が妥当な範囲かと存じます。図に表しますとこうなります」
お嬢様は何だか気まずそうな、かつ苦虫を嚙み潰したようなお顔をなさいました。
断じて覗きなどではございませんが、お嬢様のご健康のためならば、わたくし自身はたとえ嫌われようとも本望でございます。
鼻血でございますか。
もちろん我慢……いえ。
ここで鼻血を出しますと、覗きであったことを認めることになりますので。
これは、れっきとした健康診断でございます。
本当でございます。