第101回 恐怖の衝撃事件でございます
一面を彩っておりました、あれほど鮮やかな紅葉も、すっかり散ってしまいました。
辺りは晩秋、枯れ葉色でございます。
わたくしは、この去りゆく季節をちょっぴりアンニュイに味わっておりますが、
お嬢様はちょっぴりどころではございません、超アンニュイでいらっしゃいます。
放課後の今も、学校の教室でお一人残られ、机に白磁のあごをちょこんと乗っけられてお足をばたばたとなさっておられます。
「お嬢様。恐れながら、万物は移ろいゆくものでございます。諸行無常とも申します」
「そんなこと言わないで、サン。私だって……すぐには受け入れられないこともあるわ」
お嬢様は机にお顔を伏せられてしまいました。
上等のシルクも霞む滑らかな白金のおぐしが、ぱあっと机上に広がります。
「わたくしでお役に立てることなら何なりと、お嬢様」
「いいえ。サンはそうやって、間接的に自分のせいにしなくてもいいの。私自身の問題だから。……でも、うん。また、サンに頼ることになっちゃうわ。私ひとりじゃ、難しいから」
「お嬢様。わたくし、そのお言葉をずっとお待ちいたしておりました。わたくしをお頼り下さい。この執事、確かにお嬢様のために存在いたしております。しかしそれ以上に、お嬢様がご自身と向き合われ、その弱さを見つめられたことこそが、わたくしにとっての何よりの喜びでございます」
お嬢様はがばっとお顔を上げられました。
その瞳には、かつてない決意の光を宿しておられます。
「ありがとう、サン。私、頑張る。……増えちゃった2キロ、絶対落とすんだから!」
「何と。わたくし、今度の学期末試験のことかと思っておりました。お嬢様は、魔法実技が壊滅なさっておられますゆえ、その対策かと」
お嬢様のお顔の色も、枯れ葉色でいらっしゃいます。
お嬢様は元より痩せ型でいらっしゃいます。
わたくしはもう少しお肉……
各方面からお叱りを受けそうなのでこれ以上は控えさせていただきますが、一言だけ申し上げます。
お嬢様がぽっちゃり型になられましたら、わたくしうっかり、
ぽ嬢様とお呼びしてしますやも知れません。