第10回 呪われし運命でございます (中)
お嬢様がついお口を滑らせて、お恥ずかしさにお顔を紅潮なさっていらっしゃいます。
そのご様子を心ゆくまでこっそりと堪能したあと、わたくし、お嬢様の背後に音もなく参上いたしました。
「お嬢様。わたくし、いまのうちにお帰りの支度をととのえて参ります。つきましては、1分ほどおん前を離れますことをお許し下さい」
そのときのお嬢様の、頼りにしたくもあり心細くもあるご表情。
わたくしの大好物でございます。
さて、わたくし、館の裏手に回りまして、指を軽く鳴らしました。
周囲の風景が暗く歪んだかと見るや、次の瞬間、わたくしはお屋敷に戻っておりました。
これぞ執事魔法――
≪執事的門≫!!
ひょいと飛んで屋根の上から見上げますと、上空5000メートル付近に、氷点下50度の寒気が元気よく迫っております。
熱波を吹きつけて散らすことは簡単でございますが、それはそれで別の異常気象が発生いたします。
ので、ここは踊りましょう。
わたくしの故郷に、『バタフライ効果』という学説がございます。
かすかな大気の揺れが遠く離れた地に竜巻を引き起こし得るかも? という、壮大な提言でございます。
蝶ではございませんが、わたくしのパパン、ほいっ、パパン、ほいさっさ、というエレガントな振り付けがいま、巨大な空気の渦を起こしております。
これにより、寒気は全ておいしそうな冷え冷え綿菓子となって巻き取られました。
これぞ執事魔法――
≪執事音頭≫!!
お帰りの支度時間は毎分500文字をお読みいただくと想定いたしました場合のお時間でございます。
目安になさって下さい。