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短編

ダセェこと。

作者: 382

 ポカッ。


「うわあああああん……」

「こらッ!テツ!またユイを泣かせて!」

「へッ、バーカ。」

 親に怒られても平気の平左。

 べ。と、舌を出してその場から逃げ出す。

 妹のユイに手を上げるのはいつもの事で、それでユイが泣いて、親に怒られて逃げ出す。というのがいつものパターン。

 歳以上に知ったかをするテツは、何事に対しても「つまんねー」という態度をとる。

 同年代の子が一生懸命物事に取り組んでいても、「バッカじゃねえの?」という目線で見ている。

 だから。というわけではないが、妹のユイに対しては、体の良いオモチャとしか見ていない。

「アンタお兄さんでしょ!」

「兄ちゃんですけどー?」

 こんな調子で小馬鹿にした態度で返してくるから、最近では親も諦め気味。


「にいちゃん」

「ついてくんなよ!お前となんて、遊んでやんねー!」

 同級生達と公園で揃えば、ついてきていたユイを置いて、どこかへ駆け出した。

 また泣いたユイの声は聞こえていたが、テツは流行りのオモチャで頭がいっぱいになり、ただの雑音程度にしか捉えていなかった。

「おい、いいのか?」

「あ?何が?」

「いもうと」

「いいよ。すぐ泣いてうるせーんだ。アイツ」

 友達が一応聞いてくるが、「気にすんな」と手を振るテツは笑う。


 両親は共働きで、ほとんどの時間兄妹二人で過ごす。

 母親はたまに早く帰ってくるが、大抵はテツが作ってある夕飯を温めてやり、二人で食べるのだ。

「あ、俺肉貰うからな」

「あ」

 ユイの皿にある自分の好きなものを奪うが、ユイには何も言わせない。

 だって、自分が兄ちゃんだから。


 ご飯が終われば、テレビを見たりオモチャで遊んだりと、各々好きな事をする。

「にいちゃん、あそぼ」

「うるせーな。おれ、テレビ見てんだろ」

「……」

 テレビに目を戻せば、ふと何か思いついたのかテツがニヤリと笑ってユイの方を見る。

「おい、明日遊んでやろうか?」

「ほんと!?」

「おお。ホントホント」

「やったー!」

 手を上げて喜ぶ妹を見て、「バッカじゃねえの」なんてテツは思って。



 今日は日曜日。

 先に公園に行ってろ。おれが行くまで、そこを動くなよ。

 そう言われて、団地のすぐ目の前にある公園に向かうユイを見送った後、テツもすぐ外に出る。

 向かう先は公園ではなく、友達の家。

「よう!新しいゲーム買ったって!?」

「おっせーよ!もう始めてんぞ!」

 笑って家に入る頃には、もうユイの事など頭に無かった。


 家を出たのが昼過ぎ。

 気付けばもう、空は赤くなっていた。

「お。じゃあ、おれ帰るわ!」

「おう!またな!」

 楽しい気分で家に戻れば、ふと目についた公園。

 ああ、そういやアイツどうしてっかな?なんて公園を見るが、誰もいない。

「ま、流石に帰るだろ」

 騙されたと知って、またうるさく泣いてるだろーな。なんて公園から目を離せば、聞こえてきたのは話し声。

「?」

 どっかのオバサン連中が、またおしゃべりしてるのだろうか?だが、声は男だ。

 そんな考えで植え込みから公園の中を覗けば、先ほどは死角になっていたブランコの方に誰かがいるのが見えた。

「あ」

 金髪に、ピアス。

 同じ団地に住んでいるその男は、テツから見て「カッコいい」と思っている者。

 高校生であるその男の名は、確かタツ。

 その立ち居振る舞いや着崩した制服、私服姿を見て、テツの中では「カッコいい大人」で一番に入っている。

 そんなタツがブランコに乗って、誰かに話し掛けている。それがユイだと解れば、テツはもっと驚いた。

「(何で……)」

 まだ公園にいたのか?何であの人と喋ってんだ?そんな疑問が頭の中に埋め尽くされ、気付けば植え込みに隠れてコッソリと様子を窺っていた。


「なあ、まだ帰らねえのか?」

「だって、にいちゃん来るもん。」

「お前いつからここに居んだよ。俺がここに座ってからもう1時間は経ってるじゃねえか。」

「……くるもん」

 ブランコの鎖をギュッと握り、俯くユイ。

 そんな頑なな態度にタツは息を一つ吐き出すと、「ジュース買ってきてやる。」と、ブランコから立ち上がる。自販機に向かう途中で植え込みに身を隠していたテツに気付いたのか、方向を変えた。


「おい」

「ッ」

 タツに話し掛けられ、テツは驚きで身を固くする。

 心なしか怒っているようなタツに、テツはドキドキしながら何を言われるかと黙っていた。

「お前、アイツの兄貴か?」

「……」

 声は出ず、それでも何度か首を縦に振れば、途端頭に衝撃が走った。

 数秒遅れて頭に拳骨を落とされたのだと解れば、テツは頭を押さえてポカン。と、タツを見つめる。

「お前、いつも妹泣かしてるだろ」

「ッ!」

「ダセえ事してんじゃねえ」

『ダセえ』それはテツが嫌う事の一つ。それを自分が憧れていた大人から言われるという、そのショックは如何ほどか。


「……」

「あ、にいちゃん!」

 ブランコからテツが見えたのだろう。

 嬉しそうに走り寄ってくるユイの姿に、テツは何だかよく分からない気持ちが湧いてきた。

「ほら!にいちゃん来たもん!」

「ああ。そうだな。俺が悪かった」

 先程まで暗い顔をしていたのに、「どうだ」と言わんばかりのユイの頭を撫でるタツ。

「にいちゃん、あそぼ!」

「……今日は、」

「もう遅え。遊ぶなら家でやれ」

 タツに団地の方へ誘導され、部屋の前まで送ってもらう。


 家に入れば、ユイは台所に置いてある皿を持つ。

「ユイ、チンできるようになったよ!」

 いつもテツがしているのを見て覚えたのだろう。しかし、お皿を両手で持っているので、レンジの扉が開けられないらしい。

 レンジの前でウロウロしているユイをどかし、テツが扉を開けてやった。

「えっとね」

 つまみを回すユイを見ながら、テツは先ほどの事を思い出す。


「ダセえ事してんじゃねえ」


 今でも痛む頭。

 それでも、その言葉の方がよっぽど今のテツには痛くて。

 考え事はレンジの音で中断され、熱くて持てないと言うユイに代わり、テツがテーブルに運んでいく。

「にいちゃん、お肉あげる」

 自分の好物をくれる妹の皿には、残りが少ししか入っていない。

「……」

 む。と、口を尖らせるテツは、無言で別のおかずをユイの皿に入れてやる。それは、ユイが好きなもの。

「これ、くれるの?」

「……食えよ」

「ありがとう!」


 食事が済めば、いつも通りの時間。

「にいちゃん、あそぼ」

 だけれど、今日は少し違って。

「……何すんだ?」

「あのね、これしたい」

「しょうがねえな」

 ガキくせえ。バカみてえ。そんな言葉で馬鹿にして、見向きもしなかった。

 今まで泣かせてたのに、すぐに変えるなんてできやしない。

「こんなの、楽しいのか?」

「だって、にいちゃんといっしょだもん!」

「……そうかよ」

 モヤモヤ、グルグル、ボヤーっと自分の中を充満するこの気持ち。

 何だこれ。

 変、だけど。別に、嫌じゃねえ。



 ◇◇◇◇



 月曜日。

 小学校に保育園は同じ方向。

 どちらも距離的に歩いて行ける所だ。

 いつもなら、テツは母親に手を引かれて歩くユイを置いて友達の方へ向かう。

 しかし、今日は違うようだ。

「にいちゃん」

「やめろよ。手ェ繋ぐなんてダッセー事……」

 手を繋ごうとしたユイの手を振り払おうとしたら、団地から出てきたタツに気付いた。

「フフフ。仲良く登校か?」

「おにいちゃんもいっしょに行こ!」

「ああ、いいぜ」

 ユイの差し出した手を簡単に繋ぎ、テツを見て、鼻で笑うような態度を見せるタツ。それにカチンときたのか、テツは口を尖らせる。

「にいちゃん?」

「行くぞ!」

 ユイの手を取り、半ば引っ張っていくように歩くテツ。

 タツは二人の母親に、自分が連れて行くから。と伝え、ユイに引っ張られるように歩き出した。


 ダセえとか、いちいち考えんのメンドくせえ。



(にいちゃん!)

(あー、うるせえ)

登場人物

【テツ】

悪ガキ。好きな事をやるのが好き。嫌いなものに興味無し。

好きなものはゲームとお肉。


【ユイ】

泣き虫。甘えん坊。

好きなものは、かあちゃんと、とうちゃんと、にいちゃん。


【タツ】

高校生。貧乏だが、それを不幸と思わない。

見た目も性格もヤンキーだが、子ども好き。

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