クラスチェンジ
「ん、ん……あーよく寝た」
欠伸をしながら背伸びをした俺は椅子に座って寝ていたのを思いだし、肩を解す為に動いていく。凝った肩は予想以上に酷かった。肩を回してからもう一度背伸びをした後、桜の方を見てみると既に起きていたようでこちらを見ていた。
「おはよう、桐生」
「ん? ああ、おはよう桜。今日も可愛いな」
「ふぇ!? あ、あり、ありがとう」
「どうしたんだ? 顔を真っ赤にして」
「な、なんでもない! ほら、早く行こう!」
桜はいつの間にか着替えたのか昨日貰った服に着替えていた。久方振りに見た黒ニーソに俺は興奮……ではなく、目が潤った気がする。それくらい見事な絶対領域だったと言っておこう。エロは正義である。現代が生み出した絶対領域にはほとほと頭が下がる思いだ。本当にどうやったらあんなものが開発できるのか教えて欲しいものだ。
桜はチェックのシャツを翻らせて部屋の扉を開けて出て行く。その途中で振り返り、俺を見る。その黒い瞳は俺を写している。そう思うと何故か優越感が溢れ出してくる。唐突な感覚に困惑する。だが、心当たりもないので内側へと押し込める。
「どうかしたか?」
「桐生も一緒に行くんだよ。早く立ってよね」
「あーはいはい。分かった分かった」
小さく笑みを浮かべる桜に手を引かれて俺は食堂まで行くことになった。
俺達は食堂で味気ないパンを食べてすぐに階段の間(俺命名)へと向かった。レベルを上げて食事の方を早く何とかしたいと切実にそう思った。シャリスティアは明らかに食事を下のランクに下げて食べているのだ。遠慮するなと言えばそうするのだろうが一人だけ豪華な食事を取っていれば注目もされる。なので、ここは早急に俺達が上に行って食事のランクを上げようと思ったのだ。階段の間へと辿り着いた俺だったが隣に桜がいたので気になっていたことを聞いた。
「なぁ桜。気になってたんだが桜も来るのか?」
「え、ダメだった? 桐生の役に立ちたいと思ったのに」
そう言って上目遣いで見てくる桜が目を潤ませる。それにしてもあざとい。わざとやっているのが余計にあざとく見えてしまうのだ。可愛いから俺得なのだがやめて欲しい。何故か理性の天秤が傾いてしまう。そんな異常な事態に陥るのだ。今まではこんな事はなかったのだがやはり桜の固有スキルのせいなのだろうか? そうであるならば相当危険だ。
とにかく俺は桜にデコピンをかましてお仕置きをしておく。
「あう」
「別にダメじゃないけど、お前さん武器がないだろ?」
「あ、そっか。じゃあこれなら文句ないよね」
桜は何やら虚空へと手を突っ込むとそれなりに大きい弓を取り出した。桜の身長で扱うには少し大きいサイズであったがそれは確かに弓であった。心なしか光っている気がするのは気のせいでないようである。虚空から出てきたのも驚いたがその弓の豪華さに驚く。見た目いい素材を使っているのは分かるが何の素材を使っているのかは分からなかった。
そんな弓を取り出して桜は自慢気に掲げる。
「どこから取り出したんだ?」
「アイテムボックスだよ。運び屋にクラスチェンジすると使えるようになるスキルなの。結構便利だから重宝してるんだ」
「なるほどな。戦えるのは分かったけど、クラスチェンジってのは何だ?」
「あれ? まだクラスチェンジしてなかったの? じゃあやってみた方が早いね」
「お、おう。どうすればいいんだ?」
「あそこにある水晶に手を翳すだけでいいんだよ。後はクラスの所をタッチしたらレベル10だったらメインクラスは勝手に決まるよ」
階段の横に設置された水晶へと手を翳し、昨日と同じくステータスを開いていく。レベル12になっていたステータスをざっと見てからメインクラスと表示されている所をタッチする。すると、不意に文字が表示されてメインクラスの表示が切り替わった。
『メインクラスを解放者に変更します』
名前:秋花桐生
メインクラス:解放者
レベル:12
生命力:6500/6500
魔力量:13000/13000
筋力:390
耐久力:390
器用:390
素早さ:390
魔力制御:650
固有スキル
・兵装解放
消費魔力量1000
魔力を使い、自身が所持する兵装を解放して使うことができるようになる。兵装を使う際に掛かる様々なコストは魔力を消費する事で賄われる。レベルの上昇によって兵装が解放される。
解放兵装一覧
魔鋼拳銃ジャッジメント 消費魔力量5
聖夜の魔剣ナイト・オブ・ホーリー 消費魔力量0
???
・仮初めの器
消費魔力量0 26000/26000
MPが最大時にのみ効果が発動する。最大魔力量の二倍の魔力をため込むことができ、自身の使いたい時に使うことが可能。貯まり方は自然回復量に比例する。
スキル
・限界の解放
消費魔力量500
自身に掛かるリミッターを解放し、ステータスを二倍にする。なお、重ね掛けはできない。
・異常からの解放
消費魔力量1000
自身に掛かるあらゆる状態異常を取り除くことができる。なお、即死は常に無効化される。
「解放者だってさ。知ってるか?」
「知らないクラスだよ。新しいのかな?」
「まぁ何というか解放の意味に沿ったスキルだからそのまんま解放者って意味じゃないか?」
「私もそうだと思う。それにしても新しいクラスか。桐生って意外と運命から外れてるね。新しいクラスに就く人って大体新しいことを為す人らしいからね。桐生も大成する人かも?」
「と、言うことは俺が桜の新しい恋人になるってことか」
「ちょっと、私はまだ恋人作ったことなんかないよ!」
「ほうほう、それは重畳。良いことを聞いたな」
「な! むー桐生のエッチ」
「それは何か違うからやめておけ。というか、俺はお前にしか欲情しないから正常だ」
「いやいや女の子の前で性癖ばらす人とかこちらから願い下げだから。身の危険を感じる!」
「お前のスキルのせいなんだけどな!?」
ジト目でこちらを見て体を庇う桜が恨めしい。わざとだとは分かってるがそれでも謎の敗北感があるのが悲しい。
何が悲しくてロリッ子に欲情しなければならないのかと俺は問いたい。異性魅了という固有スキルは好意の他にもその人に対する情欲まで操作されるスキルらしい。廃人になったら襲われるとはそういうことかと身震いしたものだ。
俺の性癖云々の前に固有スキルのせいなので俺をそんなジト目で見られても困ってしまうのだ。まぁロリッ子に目覚めてないかと言われれば無きにしもあらずなのだが俺が認める認めないはまた別の話だ。
話が進まないので俺は話を進めるために話題転換を図る。
「はぁ……まぁそれは置いとくとして桜のクラスだけでも教えて置いてくれよ」
「いいよ。私のクラスは錬金術師、魔弓士、風魔術師、運び屋だったね」
「だった? 何でまた過去形なんだ?」
「何故かクラスが無くなっててね。メインクラスの錬金術師しか残ってないの。ホムンクルスになったから初期化されたのかも」
「ホムンクルスになったから? まぁ大体分かった。ということは俺が前衛で桜が後衛という事だな。一応聞いておくけど、レベルは?」
「278」
「ま、マジか。結構上まで行ったのか?」
「ううん。違うよ。八十階層にある宝箱の近くでレベリングをしたの。あそこに出てくる経験値が高い魔物が出てくるからね」
「宝箱の近くにか? モンスターハウスとかじゃなく?」
「違うよ。宝箱の近くに行くと魔物が寄ってくるの。それを利用して大量に魔物を倒すんだよ。後、モンスターハウスはあるけど、自分と同レベルの魔物しか出ないからきついよ」
「面倒だなそれ。宝箱の中身って取る意味あるのか?」
「それはもちろんあるよ。宝箱の中にしか回復に関連するアイテムは取れないから。というより大半が回復に関するアイテムしか入っていないね」
回復と聞いて俺は今更ながら回復手段を持っていない事に気付く。生命力がなくなれば俺は死ぬので切らすわけにはいかない重要な項目なのだがいかんせん回復手段を持ち合わせていなかった。これでは上に行けば行くほど不安になってしまう。
そんな俺の不安を感じ取ったのか手を握って俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「大丈夫。そのための錬金術だから。私がちゃんと回復アイテムを作ってあげるよ。安心してよね」
「ああ、ありがとう桜。よろしく頼むよ」
「それに不安だったら回復術士のクラスを取ったらいいよ。ヒールやハイヒールがあると攻略も楽になるしね」
そんなクラスもあるのか。ならば、安心できる。本当に桜がいてくれて良かった。俺一人ではきっとどこかで限界が来て心が折れた事だろう。その点はしっかりと感謝しないといけない。
それから桜と戦闘について話し合った。まずは俺のレベルを上げながら上を目指すということに決まった。何をするにもレベルを上げるのは必須という訳だ。ここは地道に行くしかないの ゆっくり行くしかない。
「さぁ行こう。桐生がいるならきっと外に出られるはずだから。私に外の世界を見せてよね」
「シャリスティアと先に約束したんだがまぁいいか。期待して待ってろ。すぐに追い付いてやるから」
俺の言葉に満足した桜は頷き、笑みを浮かべる。人形のように整った顔で笑みを浮かべられると壮絶にくるものがある。具体的に言うと萌えるのだ。可愛すぎて仕方がない。固有スキルの効果もあるとはいえ、これではある意味地雷だな。
そんな事を思いながら俺は階段へ登るために足を進めた。