表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
一章・叛逆の物語《プレリュード》
3/27

魔物とドロップ品

 塔の一階層。最下層フロアから登った先をそう定義した俺はようやく登り終えた階段から一階層フロアの様相と対面する事となった。

 白亜の壁は変わらないが地面が鈍色であったのが僅かに紫が入ったように見える。何故か身近に感じるその色に疑問を抱いた。そうして少し考えていると俺はようやく理解に至った。


「これは、魔力と一緒だな。僅かに魔力が流れているのか?」


 俺の体内にも同じように魔力は流れている。それと同じような雰囲気に納得する。きっと上に行けば行くほどに濃くなるのだろう。そして、魔物も強くなっていく。何故だかそういう風に思えた。魔力とはスキルや魔法を使うのに必要不可欠なエネルギーのことだ。これさえあれば俺もこの世界では超人になれる。


「ようやく異世界に来たことを実感できたな。魔力を感じ取れる時点で色々とおかしいんだけどな」


 一通り見終わった俺は一人そう呟き、とりあえず進もうと考えて歩き始めた。ご都合主義の神様でも付いていたのか俺は魔力を初めから探知できる。これは割と凄いことだと思うのだが当たり前にできることを凄いとは思わないように魔力の探知も凄いとは思えなかったのだ。

今のところ、何の武器すらも持たない俺では瞬殺だろうが今の身体能力なら逃げることくらいは可能だ。地球にいた頃よりも数倍動けるようになっているのがその証拠だ。ここも地球とは違うところなのだが違和感がなさすぎる。順応性が高いのはいいのだが少々不気味だ。

 真っ直ぐ伸びる道を歩いていくとその先には曲がり角があり、左右どちらかに行けるようになっているようだ。


「どちらに行くか迷うな」


 どちらにせよどっちも行かないといけないのだ。ここで迷う必要はない。とりあえずは右へ行ってみよう。そう思い、右の道へと歩を進める。曲がった先を真っ直ぐ進んでいると突如として光が現れて何かが現れた。

 俺は身構えながらそれを見ているとその姿が露わになった。それは緑色の皮膚をしており、口元に小さな牙を持っていた。小学生くらいの大きさである人型は頭に小さな角を生やしており、こちらをみるとギィと鳴いて手に持っている棍棒を地面へと打ち付けて威嚇してくる。

 その姿は言わずと知れたゴブリンであった。


「ゴブリン、か。どうやって倒そう」


 初期値であるこの場所に出てくる魔物がそれほど強いとは思っていない。そうでなければここから出られないクソゲーになってしまうからだ。この塔から出さないとする意図があるなら自身の力を把握する物を置いておくのは敵に塩を送るのと同じことだ。それ故に、ここで必要以上に強い敵が出てくる確率は少ないと思っている。まぁそれもこの塔にいた人が作っていたのであれば話は違ってくるので絶対とは言えない。

 ━━殴れば倒せるだろうか?

 不意に思い付いたそれを頭を振って無かったことにして、ゴブリンを再び観察する。異形と対するという異常を前に俺は冷静にゴブリンを見る。何か掴めないかと思ったが特にそれらしい特徴はない。後は実際に戦ってみるしかない。

 そんな俺の思考を掴み取ったかのように、敵も痺れを切らせたのかこちらへと走り始めた。俺は慌ててどうにかしようと蹴りを入れてみる。すると、ゴブリンは棍棒で受け止めようとしたが軽く弾き飛ばすことに成功した。それなりに力を入れた蹴りだったのだがゴブリン相手でこの程度であるらしい。


「倍のステータスがあれば余裕になるわけね」


 今でも地球の人間を超越したステータスを持っているのだがまだ足りないみたいだ。この塔を登り詰めた先にいる地上の人々はどれくらいの強さなのか。あるいは、俺達の方が強いという可能性もあるかもしれない。そうなれるように努力したいものだ。

 そんないろんな想像もそこそこに俺はどうするか考え倦ねていると不意に自身のステータスの事を思い出した。恐らく俺だけが持つ二つの固有スキル。これの内一つを使えば倒せるのではないか。というか、できるはずだ。

 物は試しだ、使ってみよう。ダメだったなら他の手段を探ればいい。俺はそう思ってスキル名を叫んだ。


兵装解放アーマメント・リベレイト!」


 俺の叫びと共に大量の魔力が奪われていくのが分かる。およそ半分の魔力がなくなる頃には目の前に小さな歪みができており、恐る恐るそれに手を突っ込んでみると何やら確かな感触があったのでそれを掴んで引っ張り出す。

 手を引いて出てきたのは鋼色の重厚な銃であった。いわゆるハンドガンと言う奴でゴツゴツとした見た目に反して手にフィットし、ずしりと重さを伝えてくる銃は早く撃てと言わんばかりに魔力をうねらせていた。


「魔鋼拳銃ジャッジメント、か。ファンタジー感ガン無視かよ」


 俺のぼやきに反応してゴブリンが棍棒を振り上げてこちらに迫ってくる。かなりの速度であるのに対して俺はそれに合わせて冷静に銃を両手で持ち、狙いを定めてから引き金を引いた。

 ドガンと音を立てて弾は高速で発射される。薬莢が落ちる音ともに棍棒が砕け散るのが見えた。俺はその狙った先に正確に届く精密さとほとんどない反動に驚きつつも第二射を撃つために集中する。

 先程は棍棒を狙ったが今度は頭だ。もっと正確に言うならば目を狙った。両手でよく狙い、フロントサイトを通して狙いを定め、引き金を引いた。

 そして、薬莢が落ちるのとゴブリンの目玉を貫通して脳内を蹂躙するのはほぼ同時であった。血飛沫を地面へと吹き出しながら倒れ伏したゴブリンはその場で声を上げることもなく、絶命した。すると、ゴブリンの体が光り、その場に残ったのは薄い紫色をした石だけであった。

 血も何もかも消えたという現象に俺は疑問に思いつつもその石を拾い上げる。魔力が籠もっているらしいその石が何のための石なのか分からないままでいると不意に後ろから声が聞こえてきた。声がした方を振り返ってみると剣を片手に持ったシャリスティアの姿があった。


「それは魔石ですよ、桐生さん」

「魔石? 魔力が詰まってるのか?」


 俺の問いかけに頷くとシャリスティアは俺の前まで来てから話を続ける。片手に持つ剣はそれなりに上等なものなのか魔力が込められている。アーティファクト、あるいは魔道具の類だろうか。


「魔石とは文字通り、魔力が込められた石です。魔力が込められており、魔道具やアーティファクトを動かす動力源となります。私が言っていた食糧は戦うことでしか得られないというのもこの魔石を得る方法が魔物を倒す以外にないからです」


 シャリスティアは赤色のドレスの裾を翻し、最下層フロアのある階段の方へと歩いていく。綺麗な水色の髪がふわりと広がって幻想的に見える。美しい少女は綺麗な足並みで一つ一つの動作が洗練されているのがよく分かる。


「その魔石一つでパン一つが食べられます。上にいるオーガという魔物の魔石で一食分の食事が食べられますよ。ゴブリンの魔石なら十個分です。あなたが心配で来てみたのですがどうやら余計なお世話だったようですね。それでは頑張って稼いでくださいね。私は上の階層へと行って来ますので」

「上の階層? そっちには最下層フロアの階段がある場所だぞ?」

「上の階に行けた者のみが使用できる特殊な魔法陣があるのでそれを使います。あなたがこのフロアのボスを倒して二階層に行けば使えるようになりますよ」


 それはショートカットができるという事とシャリスティアが二階層以上のフロアへと行ったことがあることを示していた。俺は何階層まで言ったのか聞こうか迷ったが聞かないで置くことにした。今、必要でない情報だったからだ。その代わりにオーガが出てくる階層を聞くことにした。


「なぁシャリスティア。オーガは何階層に出てくるんだ?」

「次の階層で出てきますよ。ただ、レベル十になってクラスに就かないと厳しいと思いますよ。まぁあなたは固有スキルがあるので楽に戦えるみたいですけどね」


 それだけ言うとシャリスティアは目の前に現れたゴブリンを一閃して倒してから餞別ですと言い残してこの場を去っていった。


「なるほど、ね。まぁ何となく倒し方は分かった。レベルを上げて、強くなって、この塔を駆け上がって、地上に出る。当面はこれが目標になりそうだ。シャリスティアとならいいコンビになれそうだしな。組むかどうかは別としても」


 シャリスティアに追い付いてその先へと行く。俺がするのはそれだけだ。今はただ先達の助言に従い、先を目指して歩きながら自身の戦闘スキルを磨き上げていくのだ。それが唯一この塔で生き残れる方法なのだから。

 俺はこの一度の戦闘で理解した。魔物は本当に容赦なく襲ってくる。ゲームのように待ったなしの世界だ。命を賭けた真剣勝負の舞台だ。

 もしかしたら、コンマ一秒が明暗をあけるかもしれない。

 あるいは、不意打ちで呆気なく死んでしまうかもしれない。

 罠を踏んで殺されるかもしれない。

 人に裏切られてしまうかもしれない。

 たくさんのifを想像し、それらに対策をしていくことでようやく俺はこの世界で生きていくことができるようになる。この世界で生き残る為には戦闘技術と生存技術を徹底的に磨き上げていくしかない。


「まぁ焦らず行くさ。いつかあんたに追い付いて、そして追い越してやるよ」


 楽しみにしていますよ。

 何故か無表情でそう言う美しい少女の声が聞こえた気がして俺は笑みを浮かべて先へと進む道を歩くことにした。いつか隣に立ち、そして先へと歩くことを想像しながら。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ