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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
二章・解放の旋律《リベレイト・メロディー》
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土の大精霊/死神の少女

 赤竜を倒してから一週間が経った。その間の俺の行動と言えば、特に何もせず部屋でだらりとしたり、急に思い至って魔力の使い道を探したり、剣や銃の習熟のための訓練をしたりしていた。

 成果としては使い魔生成の魔法の会得、無属性魔法とも呼べる魔法の開発、剣と銃の扱いの習熟、くらいだろうか。なかなか充実した毎日を過ごしていた。

 そんな俺達も遂に旅立ちの日だ。桜が準備を整え、エルフィが俺の身の回りの世話をしてくれていたので快適三昧だった。正直、もう桜達無しでは生きていけない環境に陥りつつあった。


「はぁ~何というかもう一週間後って感じだな。桜もエルフィも準備OK?」

「はい。大丈夫ですよ。お父様や皆にも挨拶は終わりましたし」

「桐生はだらだらしてただけだよねー。まぁ爛れた生活しないだけマシだけどさ」

「う、それを言われると弱いな。第一お前らが俺の世話をするから悪いんだ。俺は自分でやろうとしたのに」


 俺がそう言うと二人とも俺から目を逸らしていく。反省する気がなさそうな二人は回り込んでも目を逸らすので溜め息を吐かずにはいられなかった。

 というのも俺が大人しく世話されていたのは二人のせいだからだ。俺が何かしようとすれば俺からそれを奪っていくのだ。これでは何もするなと言っているのと同じである。仕方なく、身を任せているとこうなってしまっていた訳だ。正直、俺の意志が弱ければそのままずるずると何ヶ月も過ごしていたに違いない。それを思うと今こうして森の外へと出れたこと自体奇跡と言っても良かった。


「べ、別に私達は悪くないもん。桐生が悪いんだよ?」

「で、ですよね。桐生さんが悪いんです」

「いや、どこがどう悪いのか説明してくれ。俺はそれについて語ってやるから」

「「……………………」」

「おい」


 再び目を逸らす二人に俺は再び溜め息を吐くしかなかった。


「まぁいい。俺も嬉しくなかったと言えば嘘になるしな」

「流石、桐生。分かってるね」

「本当ですね、桜さん」

「二度目はないがな」

「ちっ」

「桜、お仕置きだ」

「うえーん、桐生が虐めてくるー」


 そう言ってエルフィに縋り付く桜はめそめそと嘘泣きを始めた。旅立って早々に進まない旅路に俺は辟易しながら先を促した。


「ほら、先に行くぞ」

「はーい」

「ふふ、楽しいですね桐生さん」

「まぁな」

「桐生、早く行こうよ」

「待っとけ。俺は俺のペースで行くからな」


 先に走っていく桜は子供らしい浮かべてはしゃいでいる。あれで俺と同い年なのだから笑えてくる。隣にいたエルフィも微笑ましそうに笑っている。こんな光景を見れるのも竜を屠ったからだ。あの時、あんな事を言ってまで救った甲斐があるというものだ。


「エルフィ、お前は幸せか」


 俺の問いにエルフィはきょとんとした顔を見せると次の瞬間には破顔一笑こう言った。


「はい、幸せです。ですが、これからもっと幸せになりますから見ていてくださいね」

「分かったよ。……ちゃんと着いて来いよエルフィ」

「もちろんです」


 エルフィの言葉に満足げに頷いた俺はそのまま桜を追って歩き始めた。


 使い魔生成のコツは小動物をイメージして造り出す事だ。別に大きな動物でも造れない事はない。しかし、俺が使う用途には小動物が最適なのだ。そして、桜が作り出した錬金術の副産物、魔力を溜めておける紙━━魔紙と名付けた━━を札状にきり、そこに『視覚、共有』の文字を書き込んでそれを丸めて核に使い魔を生成する。こうすることで溜め込んだ魔力を使って動き始めるのだ。溜め込んだ魔力は俺の魔力なので細長いパスが繋がっている。それのおかげで俺の目と使い魔の目が共有される。俺が用いる偵察用途の使い魔の完成だ。

 これの難点は魔紙を札状にして核にする以上は今の所、八文字しか書き込めない事と紙の大きさを増やすと使い魔を大きくしないといけないことが挙げられる。これらは今後の課題となるので追々改良していきたい所だ。

 ところで、俺が何故こんな話をしているかと言うと実際に今、使い魔を使っているからに他ならない。視覚を共有して飛び立つと使い魔は悠々と空を飛んでいった。高い場所からの光景はそれはもう綺麗の一言でいつかは空を飛びたいと思うようになってしまった。

 そんな俺であったが遠くから土煙が立つのが見えたので二人に話をする事にした。


「なぁ二人とも。遠くから何かが迫ってくるんだが」

「敵?」

「いや、分からないな」

「桐生さん、済みません。あれは精霊です。私には分かります」

「結構離れてるのに分かるのか?」

「これでも精霊巫女ですから精霊に関しては分かるつもりですよ?」

「そりゃあそうか。じゃあしばらく待機してみよう。こちらに来るなら歩く必要もないし」


 俺はそう言って使い魔で監視をして放置する事を決め込んだ。


「というか、あれは何の精霊だ?」

「土の大精霊ですね。ノールと言うそうですよ」

「ん? この距離で会話できるのか?」

「はい。どうやらドワーフに何かがあったみたいで助けてほしいそうです」

「なるほど。それで対価は?」

「え? 対価、ですか? 桐生さんは精霊に対価を求めるのです?」

「当たり前だ。俺は方針を変えるつもりはないぞ」

「まぁエルフィールちゃんも諦めてよ。桐生も変なところで頑固だからね」

「は、はぁ……えーと、じゃあ精霊の付いた武具はどうでしょう? 土精霊が宿った武具は総じて固くなるそうですよ」

「うーん。じゃあそれでいいや」

「ありがとうございます。こちらに着いたらゴーレムで馬車を作るそうなので待っていて欲しいそうです」

「了解」


 と、いうわけで土の大精霊ノールの到着を待つことになった。到着を待つ間、俺達はしばらくその場でだべることにするのであった。


§§§


 漆黒の闇の中、一人の少女がベットに寝ていた。白く長い髪を乱雑にベッドに広げ、その白い肌を惜しげもなく披露するように腕を広げている。胸にある小さな膨らみのおかげで辛うじて女性だと分かる。その少女が目を開けるとむくりと起き上がった。


「龍神様?」

「『死神アンリーネ』」


 互いの名を呼び合う少女とどこからともなく現れた子竜が影から姿を表した。少女と子竜は互いにしばらく見つめ合っていたが子竜の方から話を始めた。


「久しいな。我はしばらく眠っていたのだがそなたは相変わらず、か」

「私は私よ、龍神様。どこにでもいる少女を神にしたって私は私なの」


 アンリーネはそう答えて笑う。その笑みはどこか自虐的であった。そんなアンリーネは子竜に憑依している龍神へと問う。


「ねぇ龍神様が私を見初めてくれた時のこと覚えてるかしら」

「ふふ、そんな事もあったな。我は今でも惜しいことをしたと思っている。そなた程に我の心を波打たせる者はいなかった」

「それ故に私は神になったのだけれど、ね。龍神様、今でもあなたは私を好いていてくれるのかしら?」

「無論、と言いたいがそれは叶わぬ願いとなりそうだぞ、アンリ」


 少女の愛称らしいその名を呼ばれたアンリーネは目を見開いて子竜に憑いた龍神を見やる。そこには楽しげな表情が浮かんでいた。あるいは諦観だったのかもしれない。アンリーネはそれを見て問い掛ける。


「それは、どういう意味なのかしら」

「解放者が現れた。我の想い人は解放者によって二度と届かない所に行くそうだ」

「私を救う者が私の心を攫っていく、と?」

「そうだ。私の予言は外れた事はない。誠に残念だ。我はまたも想い人を失った。いつになったら後継を産めるようになるのやら」

「ふふ、そうね。でも、龍神様。その予言は外れるわ。だって」


 そこで言葉を切ったアンリーネはその場でうずくまり、何かから耐えるような仕草をした後、耐えきれなくなったのか両手を広げて体を仰け反る。アンリーネの体からは黒い闇が現れ、それらが部屋中に広がったかと思うと何もかもを無に帰した。

 辛うじて残ったのは今にも息絶えそうな子竜とアンリーネのみであった。


「私は死神。生物、非生物問わずその生命を刈り取る死神よ。私を救える者なんていないわ」

「そうであったなら私は想い人を失わずに済むのだがな」


 そう言った後、子竜は崩れ落ちて塵へと変わり果てた。

 後にはアンリーネのみ。青空がアンリーネの白い肌を照らす。目を細め、大空を見上げたアンリーネは溜め息を吐いて瞬時に建物を再現した。


「私は死神。何もかもを刈り取る死神。解放者さん、私を救えるなら救ってくださいな。私はあなたの命を私の意志に関係なく刈り取ってあげましょう。それが私の定めであるのだから」


 アンリーネは再びベットへと横になる。目を閉じ、再び闇の波動が出るその日まで眠りに落ちた。


 死神となった少女が救われる日は近い。それは決定事項であり、また竜神が動き始める序曲ともなる運命の瞬間でもあったのだ。それを知るのは死神と邂逅した時。解放者がそれを知った時、世界は動き始める。









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