エルフィールの固有スキル
魂を感知する方法に関しては未だ不確かな知識しかないので今後の課題になるだろう。何かあれば研究するつもりではあるが、俺が何かしらに役に立てるとは思えない。また、俺自身に魔法の適正がないので応用できることはなさそうだ。宝の持ち腐れだがいずれは何かに使えるかもしれないと思うと無駄にはならないと思える。
そんな結論を持って俺はエルフィの方を見た。一つだけ思い付いた事があったからだ。
「エルフィ、今から試したいことがあるんだけどいいかな?」
「え? はい、いいですけど。何をするんですか?」
「君のステータスを見るんだよ」
「私の、ですか? 確かに見れたらいいなとは思っていましたがどうやって?」
「まず、エルフィの胸に触れる」
「桐生?」
桜の怖い視線が突き刺さる。俺はを逸らせて見なかった事にした。
「冗談だ。いや、そっちの方が効率がいいだけだ。ともかく、エルフィの手に触れてエルフィの魔力を操って情報を引き出す。そいで俺かエルフィの方で可視化すればいい」
「どちらでも見ることができるの?」
「そこはやってみないとダメだな。多分だけど、エルフィの方で見てもらうことになる」
「はい、分かりました」
「それじゃあ始めようか」
そう言って俺はエルフィの手を握り、目を閉じた。まずはエルフィの魔力の流れを操ることからだ。他人の魔力を操るのは難しい。何故なら、他人の意志があるせいで自分の意志を組み込むことが難しいからだ。
「エルフィ、俺に全てを委ねるイメージをしろ」
「は、はい」
それを無くすにはまずエルフィが俺に意志を委ねるようにすればいい。めったにできることではないがエルフィになら可能だ。俺を信じているからこそ、それが可能になる。
エルフィの魔力を操れることを確認した俺は心臓へと意識を持っていき、そこで魂から情報を抜き取る。どうやら感覚的には他人の者でも同じ者であるらしい。俺がやるのと同じ容量でできた。
「あっ」
「よし、もう少しだ」
それをエルフィの脳内まで持っていき、エルフィの魔力で高速処理を行う。この辺りは直感的なものなので説明のしようがない。何とももどかしいものだがこれは俺にしかできないので説明する必要もない。強いて言うなら高速で回転するようなイメージだ。余計分かりにくくなった気がするがまぁ気にすまない。
それをエルフィの目に送り、見ることができるようにする。
「どうだ?」
「はい。見れています。これは……」
エルフィの目には何が見えているのだろうか。俺には分からないがきっと凄い能力があったに違いない。期待する瞳を向けていると目があったエルフィが顔を赤らめるのが分かった。うむ、可愛い奴め。
「えーと、精霊女王って言う固有スキルが在りました。どうやら全精霊に対する命令権があるようです」
「つまり世界中の精霊の力を引き出せるわけだ」
「そうですね。道理で私の言うことを聞いてくれる子ばかりだと思っていたんです。まさか固有スキルがあったなんて」
「エルフィールちゃんも戦力になりそうだね、桐生」
「そうだな。弓も鍛えてもらって桜と同じ後衛になってもらおうかな。風精霊を使えば、かなりの飛距離と威力が出せるからな」
「私もそれがいいと思うよ」
「それじゃあ決まりだな。よろしくなエルフィ。精霊に命令できるということは万能型の精霊使いだな」
「はい、よろしくお願いします」
エルフィは頭を下げて満面の笑みを浮かべた。
「そろそろ帰るか。エルフィの固有スキルの検証はまた今度にしよう」
「はい。では帰ったら何をするのですか?」
「まずはここから出るための準備だね。矢とかも作っておきたいなぁ」
まだどこに行くかは決まってないが準備はしておかないと直ぐに動けないだろう。桜の準備が終わるまで俺は適当に魔力の扱いについて研究しておくのもいいかもしれない。
そう言えば、とエルフィが言う。
「ここから行く先は決まってないのですか? 決まってないのでしたらドワーフを探しに行った方がいいと思います」
「ドワーフ? 何でまたドワーフなんだよ」
「先程聞いていましたがクラスチェンジをするためには特殊な鉱石が必要なんです。ジョブナイトっていう鉱石なんですけど、それを手に入れたらいいんじゃないかと思ったんですがどうですか?」
「ああ、なるほどな。桜、どうだ?」
「賛成だね。それで行こう」
「ドワーフは北の山に行くと残して去っていったそうなので今もまだいるなら北の山にあると思いますよ」
「これで目的も目的地も決まったな」
こうして次の目的はドワーフ探しをする事に決まった。新たなクラスに就くことは新しいスキルを手にするのと同義だ。強くなるためにもスキルは多い方がいい。俺が強くなる為にも新しいスキルは是非とも欲しいところなのだ。
まずは帰ってから旅の準備をする。その間に修行もして何らかの成果を出したい。それから旅の再開だ。
大まかな目標は決まったので後は実行するだけだ。なるようになると思いながら俺は里の方へと向かって歩き出した。
「桜、エルフィ。今日は一緒に寝ようか」
「どうしたの急に」
「わ、私もですか?」
「気まぐれだよ気まぐれ。俺は誰かといないと寂しいんだよ」
そう言って二人を見る。別に一人で寝られないほど子供ではない。けれど、一人でいられるほど孤独に強くはない。俺は人外の強さを持つがやはりどこかで普通の心を持つ人なのだ。だからこそ、安らぎは必要だ。俺にとっての安らぎはこの二人になる。いつの間にか二人になっていることに驚きを覚える。それを思うと不思議と笑みが浮かんだ。
「嬉しい? 楽しい?」
「両方だな」
「そっか。ほら、エルフィールちゃんも遠慮なんかしたら駄目なんだから」
「わ、わ、待ってくださいよ桜さん」
桜に背中を押されて俺に抱き付いてきたエルフィをしっかりと抱きしめ、後から来た桜も平然と抱きついてくる。何というか桜は段々と羞恥心がなくなってきている。
「さぁ桐生、両手に花なんて持てる機会は少ないんだからちゃんとエスコートしてよね」
「分かりましたよ、お嬢様方」
気障ったらしく言ってみたけど、やはり似合わない。俺は普通にしている方がいい。そう思ったのか桜も苦笑を浮かべていた。エルフィはと言えば、あわあわと慌てている。初なのはいいが少しは落ち着いてほしいものだ。自分から俺のことが好きだと言った時の思い出してほしいものだ。
エルフィには当分は無理かと桜にいいように扱われる未来を俺は想像する。
「エルフィ、桜に勝てるようにならないと俺とはまともに付き合えないぞ」
「ふぇぇ! そんなこと言われても無理なものは無理ですよ!」
「ふへへ、エルフィールちゃん、覚悟!」
「ひゃん! ど、どこ触って……ひゃん!」
おなごの甘い声が響き渡る森林。嬌声が耳をくすぐり、目を潤す。何とそそる音がすることか。垂涎の光景に俺は思わずゴクリと音を鳴らす。メイドと巫女の絡み合いとはまさに目の保養以外のなにものでもない。眼福、眼福だ。
そんな女の子二人の戯れを見ながら俺はやれやれもっとやれ、と無言で促しつつ、その光景を視界に収めているのであった。




