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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
二章・解放の旋律《リベレイト・メロディー》
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いなくなったエルフィールと竜の悲鳴

 翌朝。私はゆっくりと目を覚ました。前世では寝るときにはいつも抱き枕をしていたのでほんの少しだけ違和感がある。桐生の近くにいると安心するのでぐっすり眠れるから今は問題ない。

 そんなすぐに隣にあるはずの温もりが無いことに気付き、私は辺りを見渡しがどこにもいない。どこへ行ったのだろうか? 

 そんな些細なことに不安を感じてしまう。肌寒い気がするのはきっと彼がいないからだ。温もりが、掛け替えのない温もりがいなくなると思うと怖くなってしまう。いつからこんなに女々しくなってしまったのか。彼に一目会いたいと願う。けれど、今ここにはいない。


「どこに行ったのかな?」


 私のそんな独り言は外から聞こえる大きな声で掻き消されてしまうことになった。


「た、大変だぁ~! エルフィールがいないぞ!」


 その声はあっという間に里に広がったようで外が騒がしくなった。私はエルフィールがいないことと彼がいないことに何かあるのではないかと思い、そうして思い当たる事があることに気付いた。


「そっか。じゃあ安心だね。桐生は仕事に行っちゃったか」


 私は小さく笑みを浮かべて安心する。彼━━桐生は打算的な行動を取ることもあるが必要とあれば自分から損をしてでも得を取ることもできる人だ。シャリスティアの報酬を受け取らなかったのも後の布石となるからである。もちろん、私がいるから遠慮したというのもあるだろうけど、基本的には何かしら対価を得るためにそんを取ることもある。彼女は約束は必ず果たすような真面目な人間だ。きっと今度あった時にはいずれ桐生から何らかの形で報酬を取られることだろう。

 今回はエルフィール自身を狙っての行動だ。うまいこと立ち回れたならば、合法的にエルフィールをこの里から連れ出すことができる。できるのだが、どうせ桐生の事だから真っ正直に契約をしろ、なんてことを言うはずだ。そしてエルフィールは受けるだろうと私は見ている。何故なら彼女は桐生に浅からぬ想いを抱いているから。

 そうなるようにデートをさせたのだけれど、まさか簡単にコロリといってしまうとは思わなかった。帰ってきた時のエルフィールの反応を見て私は思わず笑ってしまった。やはり、桐生は女誑しだ。今度しっかりと叱らないと私の気が済まない。エルフィールが横から入ると私の桐生が減ってしまうのだから。


「まぁそれでも桐生の為なら何でもしちゃうのが私なんだけどね」


 それが桐生の為になるなら私は何でも受け入れる。桐生がそうすると言えばそうするし、桐生が欲しいと言えば手に入れる。彼には不自由はしてほしくない。とにかく、自由に楽しく生きてほしい。そんな風に私は思っているのだ。

 部屋から出て外へと出るために立ち上がる。桐生の事だ。援護はいらないだろう。ただもしもの為に私はここで準備をしておこうと思う。エルフ族に何かあればエルフィールは悲しむだろうし、桐生も心にも何かしこりが残ってしまうかもしれない。それを防ぐために私がここにいることはきっと意味のあることだ。


 アイテムボックスから弓を出して背負う。エルダートレントで作られた弓はとても頑丈で張りが物凄く強い。身体強化を施してようやく引き絞れる程だ。これを使えば私でも大体の獲物は仕留められる。余程の強敵でないならば、桐生の足手纏いにはならないはずだ。

 そんな弓と私特製の矢筒を腰に巻き付けると外へと出ることにした。慌ただしく動いていたエルフ達はエルフィールを探して動いているようだがこの里にはいないのにも直ぐに気付いていく。里にエルフィールがいないことを気付いたエルフ達は絶望した顔を見せている。特に酷いのはエルフィールの父親であるラハールドだ。


「エルフィール……どうして行ってしまったんだ。生きろと私は言ったはずだぞ」


 私はこの場に留まっているエルフ達を臆病とは思わない。無理なものは無理だというのは大事なことだ。そこで諦めるか、諦めないかが重要なのだ。ここにいるエルフ達は全て諦めきった顔をして絶望に浸っている。

 それが滑稽で、そして自分にもそんな絶望を味わった事があったなと思い出す。それは遙か昔の出来事であり、私からすると一瞬の出来事であった。人に裏切られてホムンクルスに魂を閉じこめられ、醜いと蔑まされながらクリスタルに閉じこめられた絶望の日と同じだ。

 そして、私には救いもまたあった。桐生は私を綺麗だと、可愛いと言ってくれた。仮初めの体であったとしても今は私の体だ。褒められては嬉しくないはずがなかった。たったのその一言がとても嬉しかったのを覚えている。今でも彼の言葉に胸を踊らせている。彼を好きになるきっかけがまさにそれだった。

 おっと、思考が逸れた。私は今のこの状況がとてもよく似ていると思って笑みを浮かべた。私の声は沈み込むエルフの人達によく聞こえた。


「よく、耳を澄まして皆さん。今から面白いものが聞こえてくるよ」

「桜殿? 今はそんな場合では無いのです。エルフィールは、エルフィールは……」

「じゃあ質問。私の桐生は今どこにいるでしょうか」

「桐生殿? それは……」


『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!』


 絶叫、絶叫、絶叫。

 その有り得ない絶叫を前に私はほくそ笑む。やはり桐生は規格外だ。できるかどうか分からないなんて言っておきながら、たった一人の少女の為にその無謀を犯そうとするのだから笑えてしまう。彼にできないことはきっとない。

 だからこそ、私はより桐生を好きになっていくのだ。まるで正義の味方のようで、そして悪魔のような彼に惹かれてしまう。

 どれだけ善行を積んで崇められても桐生の隣は私だけのものだ。

 どれだけ手を汚したとしても桐生の隣にはきっと私だけはずっといることになる。

 私は続けてもはや明らかになった答えを朗々と続けた。エルフ達の愚かな絶望を断ち切るために。


「答えは貧弱な竜を殺しに行きました、だよ。ねぇラハールドさん、報酬は高いよ?」


 その言葉にラハールドさんは呆然する。それが楽しくて私は笑う。きっと私は悪魔のような笑みを浮かべていることだろう。彼が私に共に居てくれと言った時の悪魔のように魅力的な笑みが私の脳裏を横切る。あれは反則だ。誰であろうと好きになってしまうにちがいない。

 エルフィールには桐生を渡さないと密かに思いながら私は念のために弓を手に取った。


§§§


 夜も明ける頃、一人の男が疾走していた。木々の根を飛び越え、あるいは木々を足場にして跳ねるように森を駆けていく。黒髪黒目のその男は小さくリズミカルに息を吐きながら走っていく。


「はぁ……はぁ……はぁ」


 森の中を掛けていく男は学生服を着ていた。よくよく見れば一瞬一瞬、足に魔力を纏っているのが見える事だろう。魔力で身体能力を強化するのはこの世界の常識である。彼はそれを連続して刹那の間に行っている。これはこの世界の人間ではできない事だ。

 そんな彼は巨大な木が見えてきた頃に一つのスキルを発動した。この世で彼だけが持つ彼だけの固有スキルを。


「……兵装解放アーマメント・リベレイト!」


 彼の体内から魔力が消費され、目の前に穴が開く。彼は一瞬で両手を突っ込み、そこから二つの武器を取りだした。

 一つは剣だ。黒の刀身に真ん中に白いラインが入ったロングソードである。

 もう一つは鋼色の重厚な拳銃だ。それなりの魔力が込められているのか、紫色のスパークが轟いているのが分かる。

 彼は森林が開けた先に辿り着く。そこには白装束の少女と赤い竜がいるのが分かった。剣と銃を持った男はそのまま駆け抜け、そのまま赤い竜にぶつかる勢いで飛び、剣を一閃すると同時に蹴りを入れた。


『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!』


 赤い竜が地面に墜ちながら絶叫を浮かべているのを尻目に男は見事に地面へ着地し、後ろへと振り返る。白装束を着たエルフの少女を確認したその男━━桐生は正義の味方である勇者のように優しく笑み、一方で悪魔のように厭らしく見える笑みでもってエルフの少女、エルフィールに問い掛けた。








 ━━さぁ契約しようか、と。


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