アーティファクトとステータス
シャリスティアに着いて行って案内されている途中、俺達は互いの自己紹介をしていた。
黒い髪を肩あたりまで長く伸ばした少女と茶髪をポニーテールにした少女、そして、黒い髪を短く切り揃えた男、俺が意識を刈り取った男、最後に俺。
これが召喚されたすべての人だ。
「俺の名前は花谷優一だ。よろしく。気絶してるのが池田宗太」
「私は神山優子。よろしく」
「花蜂幸江です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。俺は秋花桐生だ。それでお前達もこの塔を攻略するのか?」
俺の問いかけに三者三様の答えが返ってくる。
「俺は宗太について行く。親友としての義務は果たすさ」
そう仕方がなさそうに言ったのは花谷だ。一目見て苦労人気質なのは分かったがそこまでお人好しだと呆れかえってしまう。ここは生死を賭けた戦いをする場所だ。そう簡単に他人に命を預けられるというのは信じられないことだ。
「私は保留したいところね。それにいくら仲が良くても命を預けられるかと言えばまた違うもの。私は自分の命を賭けてまで地上に出たいとは思わないわ」
「合理的な考えだな」
この少女は始めに俺を訝しげに見ていたがそれは信用できるかできないかを見極めようとしての事だろう。現に今も一定の距離を離して歩いている。警戒している証拠だ。まぁ女に好かれたいなんて言う感情は俺にはないのでどうしようとも思わないがある程度友好的に振る舞うくらいは考えておいてもいいかもしれない。私情を無視して計算できる存在は非常に好意的だ。
「わ、私は速水くんについて行きます」
最後におどおどとそう言ったのは花蜂だ。速水を見つめる目は暖かく、それはもう恋する乙女と同じ目をしていた。残念ながら速水はシャリスティアに恋心を抱いたようだが頑張って欲しいものだ。その豊かな胸を揉ませて最後まで致してしまえば、責任を取って結婚はしてくれることだろう。最もそんな事は分かっていても本人ができるかどうかは別なのだが俺には関係がないのでどうでもいい。
三人の意見に聞いて友愛と合理と恋心の三つの意見に俺はこの先が思いやられる。唯一まともなのは神山のみ。俺がまともであるのかどうか疑問を持たれると答えに支障が出るが、それはともかくとして進むならできるだけ俺の先を行って欲しいものだ。俺がじっくり鍛える間に先に攻略してもらえばどのように攻略したのかが分かる。どうやって情報をリークさせるかは考えなければならないがそんなのはおいおい考えていけばいい。
そんな事よりも考えなければならないのは俺達の現時点での実力だ。どの程度戦えるのかを把握しなければならない。この世界に来てからというもの身体能力が上がっているのは確かだ。速水を一撃で熨せたのもそのおかけだ。俺以外は把握してなさそうだが果たしていつ気付くのかは知らないが早めに確かめておいた方がいいのは確かだ。
そんな俺の考えも案内された先に着いた所で一端、雲散霧消する。それはまぁ何というべきか簡素すぎる食堂であったからだ。机の中央に何らかの道具が置かれているだけの部屋だ。ここが食堂であるのであれば一体どこから飯を取り出すのか。
シャリスティアは俺達にここで待つように言うとどこかへといなくなった。それからしばらくして戻ってきたシャリスティアは五つの道具を机の上に置いた。
「これがアーティファクトです。聖剣エクスカリバー、魔女の杖、聖女の杖、魔剣ギルディア、転移の指輪の五つです。ここから一人一つ選んでください」
そう言われた俺達は互いに顔を見合わせてからどうするかの話し合いを始めた。俺はそれを傍観していた。
「どうするの?」
「私は何でもいいけど」
「そう。じゃあ私は魔女の杖をもらうわ」
「じゃあ俺は魔剣ギルディアだな」
「え、えーと私は聖女の杖で」
「お前はどうするんだ秋花」
最後にそう聞かれた俺は一つのアーティファクトを手に取ることで答えとした。俺の選択が意外に思ったのか神山は聞いてきた。
「どうして転移の指輪を選んだのよ。聖剣エクスカリバーなんていかにも強そうじゃない?」
「そして、いかにもコスト高そうな武器だな。そんなものを使うくらいなら普通の剣を使った方がマシだ」
この話はこの本当だ。だが、言っていないこともある。俺には何かは分からないが力が備わっている。先程から胸の奥に何かを感じるのだ。それを引っ張り出せば武器になるという確信がある。だから、転移の指輪なんていう補助系のアーティファクトを手に取ったのだ。補助系のアイテムは今後手にはいるか分からないし、何より便利だからだ。
「それでは今から階段まで案内してそれぞれ個室に戻って貰いましょう。階段の先に地上へと続く道があります。果てしなく遠く、長い道のりになるでしょう。ですが、私の願いを叶えて頂けるのであれば、是非とも攻略を進めて頂きたい」
シャリスティアはそれだけ言うと赤いドレスを翻して今度は階段のある場所へと案内を始めた。俺達はそれに黙って従った。
それは食堂から出て真っ直ぐ出た所にあった。各個室があるらしい場所を抜けた先に広場があり、水晶のような物が壁に埋め込まれている。その水晶が埋め込まれている横には階段があり、上へと続く道へとなっていた。
シャリスティアは俺達を一人ずつ一瞥すると言った。
「ここから先が魔物が出るエリアとなります。多種多様な魔物がいて、襲い掛かって来ることでしょう。そこにある水晶で自分のステータスを見れるので見ておいてください。先程通った場所にご自分の名前が書かれたプレートがあるはずです。その部屋が自分の部屋となるので覚えておいてください。なお、他人の部屋は許可なしには入れないのでこれも覚えておいてください。何か質問はありますか?」
そう聞いてくるシャリスティアに俺は質問をする。
「今から行っても大丈夫か?」
「はい。いつでも行ってもらって構いません。命の保証は当然ありませんが」
「ああ、それなら分かってるからいいんだ」
そんなものは当たり前だ。言われるまでもなく分かっている。そう思ったが何も言うことはなかった。
俺は水晶に振れて自身のステータスを確認する。そこには名前と性別と年齢とスキルが書いてあった。
名前:秋花桐生
クラス:なし
レベル:1
生命力:1000/1000
魔力量:2000/2000
筋力:60
耐久力:60
器用:60
素早さ:60
魔力制御:100
固有スキル
・兵装解放
消費魔力量1000
魔力を使い、自身が所持する兵装を解放して使うことができるようになる。兵装を使う際に掛かる様々なコストは魔力を消費する事で賄われる。レベルの上昇によって兵装が解放される。
解放兵装一覧
魔鋼拳銃ジャッジメント 消費魔力量5
???
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・仮初めの器
消費魔力量0 0/4000
MPが最大時にのみ効果が発動する。最大魔力量の二倍の魔力をため込むことができ、自身の使いたい時に使うことが可能。貯まり方は自然回復量に比例する。
ステータス覧には固有スキルと書いてある。どうやら俺だけのスキルという意味らしいがとても使い勝手が良さそうだ。これからどんなスキルを覚えるのかは知らないがこれらのスキルはずっと使っていく事だろう。戦闘の中核になりそうなスキルを最初から持っている幸運には感謝しなければならない。
それらのスキルを一通り確認すると俺は階段へと足を踏み入れる為に息を整える。ここから先は命懸けの戦場だ。覚悟もなしに行く場所ではない。
「お、おい。早速行くのか?」
「ああ悪いけど、そうするよ。肌で感じてみないとな。俺がもし死ぬようなら注意して進めよ。少なくともここにいる奴らよりは強そうだし」
花谷が聞いてきたのでそう答えると俺は階段へと足を踏み入れた。