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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
二章・解放の旋律《リベレイト・メロディー》
18/27

エルフの里

 それからエルフィールと名乗ったエルフの少女と邂逅した俺達は自己紹介をした後、翌朝になるまで共に火を囲むことになった。何でも日に一度しか通れず、エルフが一人通ると二度と他のエルフは通ることができない結界が張られているらしい。予想していた通り条件を指定した結界━━条件結界と言うらしい━━が張られているのだと言う。その通ったエルフ、今回はエルフィールが戻れば他のエルフが通ることはできるらしい。

 俺達は結界についての話を憂いとも悲しみとも取れる表情を纏う少女がそう言うのを聞いていた。


「なるほどな。通りで通れないわけだ。壊すしかないと思ってたけど、まさかそれが正解とはな」

「確かにね。桐生からできそうだけど、やっちゃう?」

「あ、あの、結界を壊すというのは冗談ですよね? それをされると私達エルフは困るのですが」

「そうなのか?」

「一応、こんなでも外界から敵が入らないようになっているので」

「味方も入れないようになってるよな」

「……はい。数十年前はドワーフも共にあったのですが全て外に出て行きました」


 ドワーフもいたのか。ならば、他にも色々と種族がいそうだ。獣人やら魔族だとかもいるのだろうか。あるいは未知の種族もいるのだろう。

 エルフィールの表情や話からすると何か困っていそうだが気軽に聞ける話ではなさそうだ。この結界を壊せば強さの証明にはなるのだろうが何らかの元凶が出てきた場合対処しなければならなくなる。対価も無しにしてやるほどお人好しではないのでそんな事はやらないに越したことはない。


「まぁあえて聞かないぞ。そちらの事情なぞ俺達の知ったことではないからな。それにあまり強すぎる相手だと死ぬ可能性もあるからな」

「ありがとうございます」


 エルフィールはそう言って頭を下げた。聞かれたくないオーラを出しまくっていたが正直俺も聞きたくなかった。いずれ聞くことになるだろうという予感があったからだ。エルフと会った時点で厄介事に巻き込まれる、あるいは巻き込まれに行くのは確実なのでそろそろ対価を決めておいてもいいかもしれない。まるで悪魔のようだなと俺は苦笑した。

 俺がそうしている間にも話は続いていく。


「エルフィールちゃん、精霊巫女って何なの? クラスの事だとは分かってるんだけど」

「ええ、その認識で間違いはありません。私達の間ではその精霊巫女のクラスを持つ者が選ばれるのです。その中でも精霊とより強く見えたり、会話できるものが選ばれるのですよ」

「精霊と会話、ね。今もここにいるのか?」

「はい、いますよ。桜さんの側には風の精霊がたくさんいます。風の精霊に愛されている証ですね。もしかして風の精霊を使役できるのですか?」

「まぁ一応ね。私の魔力が作り出せるんだよ。その後はどこかに消えちゃうんだけど、もしかしてずっと側にいたのかな?」

「そうだと風の精霊が言っていますね。気が向けば力を貸すとも。精霊巫女でもないのに凄いですね桜さん」

「そんな事ないよ。エルフィールちゃんだって精霊と話せるんでしょ? そっちの方が凄いと思うなぁ」

「私にはこれしかありませんからね」


 そう言ってエルフィールは黙り込んだ。何か思うことがあるのだろう。何かを悩んでいるような様子に俺は何も言わないでおく。

 人それぞれ何かを抱えているよに目の前の少女のように小さいエルフにも悩みなどがあるのだ。それは決して俺達が軽々しく触れていいものではない。所詮、部外者であり、責任を取れないなら聞くべきではないのだ。救う気がないなら尚更だ。

 桜を小学生低学年とするならエルフィールは小学生中学年といったところだろう。正直、ドングリの背比べも甚だしいが差はあるのでエルフィールの方がお姉さんっぽく見えてしまう。胸も桜の絶壁と比べればいくらか女性らしさが溢れる膨らみを見て取れる。帯で少しばかり強調された胸は無いよりマシな程度だと評価できる。

 胸の大きさに拘りはないがこうして見ていると桜が如何に乏しい胸を持っているかが分かるというものだ。むろん、本人を目の前にして言うことではないので黙っておく。

 話が逸れたので話題を修正も兼ねてエルフの里について聞くことにした。


「エルフの里はどんなものがあるんだ?」

「そうですね。色々ありますが土魔法を使った農業はそれなりにできていまして、稲を栽培していますね、後はじゃがいもです」

「米があるのか。それはまた楽しみだな、桜」

「おにぎり食べたいね。塩を付けただけでも美味しいからね」

「お米を食べた事があるのですか? エルフ族のみにしか栽培されていないと思っていたのですが」

「ああ、まぁな。いわゆる諸事情に付き、という奴だ。聞かないでくれると助かる」

「そうですか。世界は広いですからそんな事もあるかもしれませんね」


 むしろ世界の外にまで事情は発展します、なんて言える訳もなく俺は曖昧に笑みを浮かべることで答えとした。


「そろそろ寝ましょうか。明日には結界が通れるようになっています。里は結界の中に入ってすぐにありますので安心してくださいね」

「ああ、明日は案内を頼む」

「じゃあお休み、エルフィールちゃん」

「はい。お二人ともお休みなさい」


 そう言って俺達は横になった。草原の下で寝るのは初めてであったがどうにか眠れそうだ。それほど堅くない感触に安堵し、俺は目を瞑る。俺に背を預けるようにして寝ている桜の頭を撫でてた俺は小さく呟いた。


「おやすみ、桜」

「うん、おやすみ桐生」


 そうして眠りに就いた。


§§§


「では、行きましょうか。手を繋いでもらえますか?」

「ああ、分かった」


 俺と桜はエルフィールの手を掴む。それからすぐにエルフィールは壁に向かって歩き出す。一つの言の葉を紡ぎながら。


「我、古より続く世界樹を守護する末裔なり。エルフを守る壁よ、世界を守り導く者と思えるならば彼らを通したまえ」


 それはまるで選別の呪文のようであった。これに弾かれたならば通れないのだろうなという漠然とした思いをしながら壁へと歩いていく。しかし、それは杞憂であったようでするりと何事も無かったかのように通り抜けることができた。


「どうやら通り抜けられたようですね。さっきの呪文にある通りここには選定された者のみが通れます。あなた達は選ばれました。つまり、エルフはあなた達を歓迎します、という事です」


 エルフィールはそう言うとその手を取ったまま、奥へと進んでいく。壁の向こう側は草原とは違い、森でできていた。木々生い茂り、自然溢れる様は見ていて心地よさを与えてくれる。それはまさに自然の息吹と言えるものであった。

 しばらくそのまま歩いていると森を抜け、里の姿が露わになった。外敵がいないからなのか、柵のような物はなく、ただ見張りを置いているだけのようであった。その見張りに近づきエルフィールは挨拶を交わす。


「おはようございます、エルヴィーさん」

「ああ、帰ってきたのかい? 覚悟を決めたようだね」

「はい。後はこの方達にお願いしようかと思っています」

「そうか……お客人、ようこそエルフの里へ。我ら一同歓迎いたしますぞ。ただできれば、我らの願いを聞いて頂ければ幸いです。では、お通りください。……巫女様、どうかお体を大切に」

「ええ、ありがとうございます、エルヴィーさん」


 そう言ってエルヴィーというエルフと別れ、中へと入っていく。里の中は活気に溢れているのかと思っていたがどのエルフ達も暗い顔をしている。そう、まるでエルフィールと同じ憂い、悲しみを覚えた顔をしている。どうしてこうも沈んだ顔をしているのかと思っていると手を離したエルフィールから説明が為された。


「赤竜がここに住まってからこうなってしまったんです。今はそれだけ、理解しておいてください。父から話があったならば、その時に聞けるでしょう」

「そうか。辛気くさい顔をするのがエルフの特性かと思ったが違うんだな。あんまり暗い顔をしてると人生楽しくなくなるぞ?」

「そうだよ。エルフィールちゃんも皆も何だか暗い顔をしてて怖いよ」

「済みません。それ程までに深刻な問題なのですよ。そういった意味ではあなた達はこの里の希望であると言えるでしょう」


 エルフィールは笑みを浮かべることなく、淡々とそう告げた。まるでエルフィールにとっては希望ではないと言わんばかりのその言い様に疑問を抱いたがまぁいいかと聞き流すことにした。

 エルフの里というだけあり、エルフがたくさんいる。男女共に美形であり、そのほとんどが同じ顔をしている為に見分けが付かない。唯一男女の違いが分かるのが関の山だ。老いないというのはこうも見分けが付かなくなるという証明ではなかろうか。そんな風に思うのであった。


「さぁこちらへ、ここが私の家です」

「ほう。それなりに大きいのな」

「それでも日本の一軒家くらいだね」


 貴族の豪邸並みに広いわけではなく、質素倹約を旨に着たような大きさの家であった。エルフィールに従い、中へと入ると同じくエルフの姿があった。


「エルフィール……帰ってきてしまったのか。何故、戻ってきた? お前だけなら幸せになれたはずだ」

「お父様、それではエルフの血は途絶えてしまいます。例え、私だけが生き残ったとしてもきっと奴隷となり、子を孕む事もなく、犯され、死に行くはずです。そんな運命を辿るくらいならば、可能性に賭けて次にバトンを渡すべきでしょう」

「……お前は、妻に似て本当にバカな娘だ。お前の母もエルフの未来に賭けてその命を散らしていった。そんな所まで似なくともよいのに全く」

「お父様、それよりもお客様がいらしております。資格持ちの方ですよ」

「これはこれは、済みませんな。身内の話し合いを見せるなど周知の極み。そんなどうか見なかったことにしてくだされ」

「ああ、そうするよ。俺は秋花桐生だ。桐生と呼んでくれ」

「私は園田桜。桜と呼んで下さい」

「私はラハールド・エルヴンガルドと申します。では桐生殿と桜殿とお呼びしよう。して、お二方はどのようなご用件でここへ?」

「とりあえず泊まる所が欲しくてな。後は、そうだな。条件次第で雇われに、とでも言えばいいのか? まぁ要するに何でも屋だ」


 俺の言葉に桜は目を見開いて驚く。俺がこれを言ったのはこれが初めてだ。驚くのも無理はない。元々この地に降り立ってから考えていた事だ。どのようにして路銀を稼ごうか、と。

 そう考えた時、思い付いたのが何でも屋だ。依頼を選り好みするのは当たり前だがそれなりの報酬があれば請け負う依頼人。それが何でも屋だ。

 この何でも屋家業を始めようと思ったのは路銀を集めるという目的もあるが俺の打算的な性格にぴったりな商売だと思ったからだ。戦闘能力もあるし、計算もできるならば、それなりのことができる。報酬を突き詰めて求めることができる。つまりは大利を求めることが前提の商売は俺にあっていると思ったからだ。


「何でも屋、ですとな。それはまた珍しい」

「ああ、今さっき思い付いただけからな。よくよく考えればこれからの路銀を集めるためにも仕事をしないといけない、と思い至ったわけだ」

「ふむ。何かありましたらお頼みしますが宜しいのですな?」

「ああ。どんとこいだ。腕っ節がなけりゃこんな事は言わないさ」


 俺はそう言ってさりげなく力があることをアピールした。これで何かを頼んでくることもあるだろう。正直、報酬の宛てについてはもう既に考えてある。この目の前のエルフが頷くかは五分五分だがまぁ頷く他ない交渉となるだろう。

 そんなあくどい事を考えているなどと知らないであろうラハールドは俺達を家の中へと案内してくれる事になった。中は至って普通の木造の建物だ。高床式になっており、地面から家の床が少しだけ高くなっている。そんな家の中は複数の部屋がその内の一つを貸し与えてくれた。


「お二方、夜になればまた呼びましょう。できれば夕餉を共に食べたいと思っています。どうでしょうか?」

「ああ、頼む。話も聞きたいしな」

「分かりました。では、そのように。それまではこの部屋でゆっくりとご寛ぎくだされ」


 そう言ってラハールドは頭を下げると部屋を出て行った。


「ふう……疲れた。やっと二人になれたな」

「そんな事より何でも屋なんて初めて聞いたんだけど?」

「そりゃあ初めて言ったからな。ほら、路銀集めもしないといけないしな」

「本当はエルフィールちゃんが狙いじゃないの?」

「ギクリ、なんってな。まぁ正解だ。理由は言わなくとも分かるだろ?」

「精霊が見えて話せること、かな? そんなに貴重な能力かな?」

「俺達にない能力なのは確かだ。今後、俺達が新しいクラスに就くにしろ、それはまだ先の話だ。桜はステータスを見れるようだけどそれだけだろ? 珍しい能力というよりスキルを持っている奴はこの手に取り込んでおくに限る」

「なるほどね。少なくともエルフィールちゃんの魅力に当てられて訳じゃないと分かって良かったかも」

「はは、そんなわけないだろ? 俺も男だが前にも言った通り、俺が欲情するのは桜だけだからな」


 いくら美しくとも桜以上に美しいと思えるものはいないし、また愛しい存在となり得る者はそうはいないと思っている。端的に言えば、入り込める余地などないのだ。俺はそれくらいに絶対的に桜を愛している。以前のスキルの影響も相まってそれくらいに達しているのだが桜には伝わらないのが残念だ。


「でも、美しい所を並べてみたいというコレクション欲はあるかもな。桜以上の奴はいないだろうけど」

「もう、すぐそうやって言うんだから。別にエルフィールちゃんを狙うのはいいけど、ちゃんと最後まで責任は取らないといけないんだからね?」

「分かってるさ。悦びを教えてやればいいんだろ?」

「何故か卑猥に聞こえるのは気のせいかな?」

「キノセイ、キノセイ」


 冗談はともかく有用な存在は神殺しという名のジャイアントキリングをする俺からすると必要なものだ。ここで一つ手に入れておくのも悪くない。精霊がどれだけ使えるものかは分からないがきっと必要になってくるはずだ。ありとあらゆる力を持って神を滅するのが俺の役目なのだから。

 俺は桜をそっと抱きしめると頬に吸い付くようにキスをするとぎゅっと抱きしめる強さを強くした。


「対価はしっかりと払ってもらうけど、仕事はきっちりこなしてやるからさ」


 俺はそう言って悪い笑みを浮かべた。その後、桜に軽く叱られたのは言うまでもない。




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