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神殺しの解放者《リベレイター》  作者: 炎の人
一章・叛逆の物語《プレリュード》
16/27

落日の塔、反逆の始まり

「ん……ああ、ここは……?」


 精神世界でスケールを殺した俺はそのまま精神世界が壊れるのと同時に意識を失った。

 目を開いて様子を見ようとするとまず桜と目があった。その黒い瞳は今にも泣きそうなほどに潤んで見えた。


「どうしたんだよそんな泣きそうな顔して」


 俺が一言苦笑して告げると桜は俺の胸に飛び込んできてわんわんと泣き始めた。意外な反応に驚き、とりあえず頭を撫でて落ち着かせる。正直、動揺しまくりな俺だったが何となく理由は察したので何も言わずに為すがままにしておくことにした。

 ふと、空が青い事に気付いた俺は今にも崩れ落ちそうな塔を視界に収める。それはきっと俺達がいた塔であり、スケールが破壊を望んだ塔であると確信が持てた。

 しばらくして桜が泣き止んだのを見て俺はもう一度頭を撫でてやってからその頬に触れる。赤子のように柔らかい肌が俺の手に桜の存在を示してくれる。


「桜、お前のおかげで助かったぞ」

「違うよ。私があんなスキル持ってたから桐生が……」

「何言ってんだよ。あれがなけりゃもっと塔から出るのは遅れてたぞ。気にするな。って言っても気にするだろうからお仕置きだ」

「え?」


 桜の頭をデコピンで弾く。いたっと額を押さえる桜を抱き寄せて俺はしっかりと抱き締めた。そこにいるだけで安心できる。たった数日、されど数日。一目惚れにも似たこの想いはきっと本物だ。小さくて華奢な体を抱き締めて俺は小さく、けれどはっきりと耳に届く大きさの声で呟いた。


「愛してる桜」

「あ、桐生……いいの? こんなあたしで」

「むしろ問題があるのか? もしかして俺が嫌いとか?」

「ううん。そんなことないよ! めちゃくちゃ大好き! でも、何かまた迷惑掛けちゃうかもしれないし」

「なら、迷惑を掛ければいい」

「え? でも……」


 戸惑う桜に笑みを浮かべながら俺は言う。そんな事は些細なことだ、と。


「別にいいんだ。何があっても二人で乗り越えればいい。辛いなら頼れ、楽しいなら共に笑ってくれ。たったそれだけで俺は幸せに生きていける」

「桐生……」

「だから、気にするな。俺は何をされても喜んで対応してやる。それに俺がお前のことが好きなんだ。逃げられると思ってるのか?」


 顔を見合わせて笑ってやると桜は顔を真っ赤にして俯いた。なるほど、それなりに効果があったようだ。


「あ、あう……」

「はは、可愛いな桜は。もっと可愛い所を見せてくれ。もっと笑ってくれ。もっと俺を愛してくれ。この世界で生きる為にはそれが必要なんだ。お前が俺を支えてくれ、そうしたら俺がお前を支えてやる」

「う、うん。ありがとう桐生」

「おう。ところでここはどこなんだ? 塔の外だというのは分かってるんだが」


 青空の下でこっ恥ずかしいことを言っていたのだと思うと急に恥ずかしくなってくきたので話題を変える。崩れ去る塔の近くには何もない。平原が広がるのみ。遠くにはシャリスティアや池田達の姿もあった。

 ふと、桜の方へ目を向けるとその姿に驚いて目を見開くことになった。何故ならメイド服を着ていたからだ。古風なメイドと言えば伝わるだろうか。ロングスカートのワンピースにエプロンドレス、更にホワイトプリムを頭にちょこんと付けた可愛いメイドさんだ。

 桜自身は気付いて無いようなのだが俺はそれを見て何というか無性にご奉仕してほしくなってしまった。それくらい桜のメイド服は似合っていた。

 俺がメイド服について考えているなどとつゆ知らず桜はどうしてこうなったのかを教えてくれる。


「えーと、突然転移魔法陣に巻き込まれてここにいたの。それでいつの間にかメイド服に変わってて、ってメイド服!?」

「今更気付いたのか。きっと塔の管理者のサプライズだな」

「そんな気遣いなんてしないでよぉ」

「でも、可愛いぞ? 正直萌えるな」

「……ま、まぁサプライズも良かったなぁって少しは思って上げてもいいかも」


 桜の現金な発言に俺は思わず吹いてしまう。それに気付いた桜が俺の体をぽかぽかと叩きながら抗議の声を上げてくる。一々動作が可愛らしくて堪らないのだが本人はそれに気付いていない。


「もう、桐生の馬鹿!」

「悪かったよ。そんなに起こるな。可愛い顔が台無しだぞ?」

「またそうやって言う。う、嬉しいけど」

「なら、問題ないな」


 既に瓦礫と化した塔を見ながら立ち上がる。塔の管理者こと秩序の神スケールは俺の手で下した。その時に得た膨大な魔素は俺の力としてレベルに現れているはずだ。これを使って俺はこの世に君臨する似非神を三柱殺さなければならない。それがあいつとの約束であり、最後の勇者(ラスト・ブレイブ)としての使命だろう。

 例えそれが俺の思いこみであったとしても俺がやりたいことなので問題はない。問題があるとすれば今のままで勝てるかどうかという話だ。俺が思考の海へと耽っていると横から声が聞こえてきた。まるで天使のような美しい声が響く。


「秋花桐生。あなたは約束通り地上へと連れ出してくれました。私はその思いに報いるため、この身と心と意志をあなたに委ねたいと思います。どうか受け取ってもらえませんか?」

「シャリスティアさん!?」


 池田の驚く声まで聞いてようやく俺は我に返る。シャリスティアは本気で俺に体を捧げるつもりであったようだ。隣にいる桜もその言葉を聞いて慌てて俺の腕を掴んで抱え込む。シャリスティアを目の敵にして威嚇する姿は小動物のようでとても可愛らしい。

 それともかく、池田の視線も厳しいのでそろそろ返答してやろう。俺が望む答えは……。


「答えはノーだ。シャリスティア」

「……それでは対価が」

「あんな契約書すら作らなかった口約束を守るなんて律儀というか何というか。生真面目すぎるぞシャリスティア」

「私が欲しい物をあなたはくれました。それに報酬を与えようというのは間違っていますか?」

「いや、間違ってないさ。だけど、今お前を受け取れば後ろの奴と殺し合いになりかねんからな」

「秋花……お前はどこまで屑に成り下がれば気が済むんだ。シャリスティアを狙うなんてこの俺が許さない。さぁシャリスティア、俺が君を守る。こっちへおいで」


 気でも触れたのか自分より強い者を守るなどと叫ぶ池田に呆れの視線を向ける。後ろに控えていた神山達に目を向けると神山は無視をし、花谷は目を逸らした。

 親友にすら目を逸らされる程に哀れな池田に俺は溜め息を吐きながら言う。


「お前、いい加減自分が主人公だと思うのはやめた方がいいぞ? お前ではシャリスティアを守ることなどできるわけがないだろ。ゴブリン一匹に苦戦してた奴がお笑い草だな」

「くっ、だからと言ってシャリスティアを見捨てるなんてことは俺にはできない。お前のような女性を食い物にするような奴にシャリスティアを渡せるものか!」


 そう叫ぶ池田はあまりにも哀れだった。自分の見ている物だけが正しいと思い込める才能は嘲笑の限りを尽くしても笑いきれない。真に愚かな人間とはこいつのような自己中な奴のことを指すのだろう。俺はもう関わりたくないとばかりにシャリスティアに告げる。


「なら、シャリスティア。お前が決めろ。俺はどっちでも構わん。桜さえいれば他には誰も必要はないからな。最もこれから行うことにはある程度人数は欲しいがな」


 俺はそう言って踵を返す。こちらに来いと暗に示すと俺は桜を連れ立って歩く。まぁでもこちらにはこないだろう。俺が拒否を示したのだ。来てもらっては困る。

 それに最後まで付き合ってあげるほど俺は優しくはない。いずれ敵として相見えた時は容赦なく屠ってやる。それがせめてもの最後の手向けだ。

 草原を桜と二人で並んで歩く。隣にいた桜が俺に先程のやりとりについて聞いてきた。


「良かったの? あんなでも同郷だし、戦力にはなったよね? それに神山って子はきっとこちらに付くと思うけど」

「別にいいんだよ。これから俺がやるのは途方もなく面倒な神殺しジャイアント・キリング。あんな幼稚な精神じゃ着いてこれないさ」

「ジャイアント・キリング? 何をするの?」


 桜の問い掛けに俺は精神世界であった時のことを説明してやる。桜は驚きながらも俺の話を聞いてくれた。

 この世界に来た以上避けられない戦いであることは何となく分かっている。ならば、こちらから行って殴り込んでやるだけだ。そのためにやることはまず戦力を整え、集めること。まずは俺達自身のレベルの底上げだ。


「さて、せっかくの異世界だ。とことん楽しんでやろうぜ」

「うん、そうだね。桐生とならどこでも楽しいよきっと」


 俺達は果てのない平原を歩きながら二人揃って笑いあった。これから起こる出来事を想像しながら。







 こうして神殺しへと繋がる狼煙は一柱の神の裏切りにより上げられた。たった二人の人間の旅路から反逆の物語は始まる。

 最後の勇者(ラスト・ブレイブ)となれる男が何を見て、何を為すのか。今、運命が動き出そうとしていた。

 以上で一章は終わりです。二章に関しましては現時点では数話しか書けていません。予約投稿時なのでその先はどうなっているかわかりません。

 どのような内容になるかは作者次第ですがエルフや竜なんかを出していきたいと思っています。あくまでも予定なので期待はしない方向でお願いします。

 では、ありがとうございました。

 

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